記憶


記憶
月見里 作

 「貴方は何歳頃から記憶がありますか?」
 初めの記憶・・・思い出したくもない忌々しい過去のその先にあるのは、顔面に雪球が当たってブランコから落ちる光景だ。音はなく、自分の体験のはずなのに第三者的な位置から眺めているような映像なのは何故だろう。
「それは現実の記憶ではなく、追憶の記憶とでも呼ぶべきものです。なぜなら、3人称視点での記憶は、本当の記憶か、それ以外の、例えば人の話や、ビデオなどの映像を元にしたものだからです。
 そうではなく、1人称視点、自分で見ているそのままの記憶はないですか?」
 ・・・・・・造花に縁取られた看板だ。確か小学校の入学式、やたらとでかい看板を間近で見ていた記憶がある。何故そんな事をしていたのだろう。子供の心理という物は分からない。
「ならば、それが貴方の初めの記憶だと思われます。」
 しかし、そんなものに一体何の意味があるのだ。
「意味ならあります。つまり、それが貴方の始まりであり、それ以前は貴方は存在しなかったかもしれないと。」
 そんなわけないだろう。なら私はどこから来たのだ。
「+1世界においては、人間ですらも合成できるそうです。しかし、人体などの形のあるものに関する実験や研究は進んでいる一方で、脳の中身の、“心”や“記憶”に関する研究は進んでいません。」
 ・・・・・・つまり・・・・・・。
「貴方が+1世界から落ちてきたことを考えると、貴方が“作られたもの”である可能性は高くなります。いわゆるホムンクルスですね。」
 まさか・・・私があのような醜い物と同じだと・・・・・・! いや、有り得ん。私はあんな物とは似ても似つかない外見をしているではないか。それに、知能だって私のほうが上だ。
「外見は、彼らに情がわかないためにあえて醜くしてあるのです。知能は教える者も教わる術も時間も無かったからで、現に捕獲したホムンクルスに言語を教えてみたところ、ちゃんと意思疎通できるようになったという事例が報告されています。」
 ・・・・・・しかし、それでも私には6歳頃からの記憶があるではないか。彼らは20歳前後で誕生すると聞いたが。
「ホムンクルス部隊の中には幼い頃から教育を施した、少数精鋭の特殊部隊があると聞きます。さらに、彼らの容姿は通常のホムンクルスに比べて向上させてあるとか。」
 ・・・・・・。
「あくまで、可能性のひとつに過ぎませんよ。生まれた時の記憶が無いなんて、むしろあるほうが稀ですし。それに、ホムンクルスと我々の間には出生の違い以外に差なんて無いですよ。仮にホムンクルスだったとして、落ち込むことも差別されることもありません。」

 変な夢だった。+1世界から亡命してきたからって、ホムンクルス呼ばわりされちゃかなわない。だいたい、私にはホムンクルスとして教育されたり訓練を受けた記憶など無いのだから。

 現在、この±0世界は上の+1世界と戦争状態にある。+1世界がホムンクルスを使った“数”で攻めているのに対し、こちらは兵士の扱う武器の改良や、特殊兵器の開発、兵士の能力を覚醒させる覚醒剤の精製など“質”で対抗している。だが、上下という地理的な要因などのため、こちらが劣勢である。


あとがき
 12個の世界が縦に円を描いてつながっているとかいうわけの分からない設定を基にして書きましたが、設定がしっかりしていない分うまくまとまりませんでした。ぐっと来るものはないだろうな〜。

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2006年3月11日公開
(基本作品)
©2006 月見里