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451 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:15:39 ID:QYmKbKQ80
後半部分、投下します。
例によって長くなりますので、
受け付けない方はスルーお願い致します。

NGワード:夢終わる時 後編

452 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:16:53 ID:QYmKbKQ80
NGワード:ID:QYmKbKQ80

人間なんて、下らない。
一昔前の少女は心底そう思っていた。
奴らは本質的に獣と変わらない。いや、獣以下だ。少なくとも獣は正直だ。
腹が減れば餌を探し、眠くなれば眠り、子孫を残す為に生きる。
人間はどうだ。生存本能の他に限りない欲望を持っている。
傷つきやすい心を護ろうとウソをつき、苦しい生活に甘んじ、嫉妬し、他者を貶める。
自分は何の害も受けないのに自分と違うからと云う理由で他者を排除し、
そればかりか殺す。いもしない神々の為に赤ん坊を生贄に捧げ、
あらゆる残虐な行為で責め殺し、神の祝福を願う。

「おお神よ、我等を護りたまえ。我等を救いたまえ」

だとすればこの私に与えられた力はなんだ。
たった一人の少女に、世界の運命を変える力が与えられている。
人間では太刀打ちできぬ力がある。この力と相対した人間は判で押したように
「神よ!」と絶望して死んでいく。馬鹿な奴らだ。
私に力を与えたのは、お前達が死の間際に祈った「神」だと云うのに。

453 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:18:04 ID:QYmKbKQ80
人間と云う生き物を見下していた少女に、
所詮少女自身も人間に過ぎぬと思い出せた青年がいた。
彼は自分自身に忠実だった。感情を隠さず、好意も嫌悪もあけっぴろげで、
虎や竜のように自由気侭に生きていた。死と背中合わせの自由と人生を謳歌していた。
そんな彼に少女は惹かれ、嫉妬し、独占欲を抱き、笑い、泣く。
少女は、いつのまにか彼が織り成す運命に取り込まれていた。

その行き着く先が、少女の前にあった。
麻帆良学園図書館島、図書館の屋上。
月光に照らされた蒼い海の底に、自身の身長よりも長い杖を無造作に構えた少年がいた。
彼の容姿は、少女に人間らしさを思い出させるきっかけとなった青年に酷似している。
あたり前のことだ。彼は、青年の息子なのだから。

「どこへ行っていたんですか、エヴァンジェリンさん」

ネギ・スプリングフィールドはトレードマークとなった穏やかな笑顔を浮かべている。
事情を知らぬ者が見れば、心の底から相手を心配していると思うであろう笑み。
だが、少年はその笑みを浮かべながら、昨日まで…いや今日まで
エヴァンジェリンに言語にいいつくせぬ苦しみを与えてきた。

454 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:19:07 ID:QYmKbKQ80
「明日菜さんから連絡がありましたよ。タカミチに誘拐されたんですって?
 タカミチも酷いことをするなぁ。僕とエヴァンジェリンさんの仲を裂こうとするなんて」
「ぼーや。一つ聞きたい」

夜風にマントと金髪をなびかせながら、エヴァンジェリンは問うた。
「ぼーやは、なぜ私を傷つけたのだ?
 私はお前をあんな行動に走らせるほど傷つけていたのか?
 私はあれほどまでに、お前に憎まれていたのか?」
「わからないのですか」

ネギの声にはエヴァンジェリンを小馬鹿にしたような響きがあった。
口調だけでなく、ブラウンの瞳にもあざける色が見受けられる。

「云ったでしょう? 僕はエヴァンジェリンさんに興味を持っているんです。
 あなたの全てを知りたいんだって。あんなに毎日囁いたのに、忘れているなんて。
 エヴァンジェリンさんも随分と薄情ですね」
「失望したか? なら私に構うのもやめるか?」
「まさか。今度はもっと念入りに教えてあげます。さあ、一緒に帰りましょう」

ネギは手を伸ばした。その言葉は思いもかけず、真摯だった。
差し出された手に、エヴァンジェリンの表情に動揺が走った。
帰る場所がどこを指すのか、エヴァンジェリンにもわかる。
図書館下層部の秘密地下室。灯りは蝋燭だけと云うほの暗い石造りの部屋。
凄まじい苦痛を与える拷問具がありふれた家具のように陳列され、
床はエヴァンジェリンの血と涙をたっぷりと吸い込み、
壁の石は耳をあてると彼女の悲鳴と哀願が木霊しているほどに今も震えている。

455 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:20:27 ID:QYmKbKQ80
ネギとエヴァンジェリンの愛の巣だ。
本来の姿からかけはなれた醜悪な愛。
だが、そこにいる限り、エヴァンジェリンはネギを繋ぎ止めておくことが出来る。
地獄ですら天国に思える時間ではあったが、あの時、エヴァンジェリンは確かにネギを独占していた。

エヴァンジェリンは躊躇した。
しかし、それは刹那のことでしかない。
蒼眼が月光を圧して煌き、

「ぼーや。もう、こんなことはやめよう」
「そうですか」

ネギは案外あっさりと頷いた。
表情もにこやかなままで、ちょっとした頼み事が断られた時のように泰然としている。
それが所詮カモフラージュに過ぎないことを、ネギも、エヴァンジェリンも承知していた。
ネギの杖に急速に魔力が集まり、大気に波動を生み出す。

「ラス・テル マ・スキル マギステル 風の精霊11人 縛鎖となりて 敵を捕まえ……」
「解放、闇の吹雪」
「えっ」

エヴァンジェリンの右手が光ると同時に、強大な負の魔力エネルギーが発生した。
ネギが驚愕を顔に貼り付けた時には、遅延魔法によって押さえつけられていた
闇と氷の奔流が溢れだした。プラハあたりの西欧建築技術の粋を凝らした建物が、
闇と氷の洪水に飲み込まれ、職人が精魂こめてつくりあげた彫刻も何もかも一瞬で破壊する。
砕けた煉瓦がバラバラと落下し、煙がやや薄くなった時には、
瓦礫の山と化した図書館屋上にあるのはエヴァンジェリンの姿だけだ。

456 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:21:46 ID:QYmKbKQ80
「これぐらいで終わりじゃないだろう、ぼーや。
 なんたってお前を鍛えたのはこの私だからな」

やれやれ、と首をすくめたエヴァンジェリンに呼応するように瓦礫が盛り上がると、
そこから青白い光弾が飛び出した。7つの光弾は長い糸を引いて
エヴァンジェリン目掛け飛翔する。
吸血鬼の少女は相手の意図を鼻で笑うと、片手を上げただけで光弾をかきけした。

「この程度で私を捕らえるつもりか?」
「まさか!」

エヴァンジェリンの左後方からネギが飛び出した。
自分の周囲には、先程と同じく青白い光弾を従えている。
吸血鬼の少女にとって死角となる位置から、かつ回避が難しい多重攻撃だ。
魔力を籠めた拳を構えて突進する。

「それが甘いと云うのだ、ぼーや!!」

エヴァンジェリンは『氷盾』を唱えて魔法誘導弾を相殺すると、
氷の鏡を突き破ったネギにむけて「くいっ」と指を動かした。
すると辺り一面積み重なった煉瓦がつぶてとなってネギに飛来した。
魔力の糸をそこら中に貼り付け、指先の動きで操っているのだ。
煉瓦とはいえ、直撃すればダメージは免れない。
ネギは慌てて防御する。せざるを得ない。
つぶてを耐え切ったネギが見たものは、予想通りの光景だった。

457 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:22:52 ID:QYmKbKQ80
エヴァンジェリンの肢体が目の前にあって、
蒼眼がニヤリと笑みに揺れた瞬間、拳底が少年の身体を吹き飛ばした。
ネギは瓦礫の中に投げ込まれ、背中をしたたかに打ち付けた。
巻き上がった粉塵が髪にうっすらと白くつもる。
咄嗟に魔力を背中に回して防御したからよかったものの、
生身だったならば、背骨が折れるか、突き出した鉄骨で串刺しにされていたところだ。

「ふふふ。生きているな、ぼーや。
 これぐらいでくたばってもらっては困る。
 久しぶりに大暴れできるのだからな。
 ぼーやにはたっぷりとつきあってもらおう。
 そして、親父同様ひんまがった根性を叩き直してやる」

足元に転がった杖を握りなおすネギに、エヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべた。
吸血鬼の真祖、『闇の福音』の異名に恥じぬ威厳をたたえながら。

458 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:24:20 ID:QYmKbKQ80
強大な魔法使い2人によって繰り広げられる戦闘は、
図書館島一帯に何度も突き上げるような衝撃波となって轟いていた。
麻帆良学園の発電機能はタカミチとしずなによって落とされたので、
周囲は漆黒の闇だ。その中に魔法の鮮やかな軌跡が飛びかい、
流れ弾が建物や地表を破壊する爆発の閃光が煌き、
戦いを観戦する2人の女学生の姿を浮かび上がらせる。

「花火でも見てるみたいですね、楓さん」

胸に古めかしい本を抱えた宮崎のどかはにこやかに後を振り返った。
声をかけられた相手は、のどかとは対照的に憮然とした表情で腕組みをしている。
女子中学3年生にして甲賀忍者、長瀬楓だ。

「のどか殿。なぜ拙者達があの2人の喧嘩につきあわねばならぬのでござるか?」
「ネギ先生と吸血鬼の喧嘩を鑑賞することに意味はありません。
 あの2人が戦っていることにこそ意味があるのです。こうなることを演出した者としては」
「演出した者?」

楓が訝しげに聞き返すと、のどかは戦いから目を逸らさずに答えた。

「明日菜さんがタカミチ先生に片思いしていることはわかっていました。
 でも、もしタカミチ先生が吸血鬼に想いを寄せていると明日菜さんが知ったら…。
 目の前に自由に出来る恋敵がいるのです。明日菜さんがジッとしているわけありません。
 おまけに、その場にタカミチ先生が居合わせたら、とても面白いじゃありませんか?」
「あ、あの手紙は……。そうだったでござるか……」

楓は自分がタカミチの机に置いた封筒を思い出した。

459 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:25:46 ID:QYmKbKQ80
「タカミチ先生が誰を想ってるかなんて、どうでも良いことです。
 明日菜さんの心を掻き乱す効果さえあれば。
 明日菜さんは私の読心能力を信じきっていましたし、
 私が嘘をつくわけないなんて信じてましたから、騙しやすかったですよ。
 あの人、文字通りの単細胞です。私の思う通りに演じきってくれました。最期まで」

澱み無くここまでの経過を解説するのどか。
舌が疲れたのか、少女は言葉を切った。
暫くして、のどかは今までとは違った低い声で話し出した。
突然の変化に楓は戸惑う。地獄の悪魔が少女の口を借りて喋っているのかと、
百戦練磨の楓が疑ったほどだ。のどかは静かに語る。

「タカミチ先生は……、しずな先生が好きなんです。
 でも、あの吸血鬼のことを忘れたわけでもない。
 学生だった時、吸血鬼と2人きりで修行した時の思い出をずっと引きずっているんです。
 ずるいですね、男の人って。
 女がどんなに一途でも、違う人を想うことも出来て、
 しかも両方とも大切だなんて平気で言えて、それが事実だなんて。
 …ネギ先生も男の人ですから、多分、同じなんでしょうね。
 どう思いますか、楓さん」

突然話を振られた楓は硬直した。
忍者として日常でもあらゆる攻撃に対処出来る自信のある彼女が反応できなかった。
楓は数秒ほど考えた挙句「そう、でござるな…」とあいずちを打った。
理性を働かせた結果ではなく、否定的な意見をのべた時の、
目の前の少女の反応を見るのが怖かったのだ。

460 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:27:20 ID:QYmKbKQ80
「楓さんもそう思いますよね。
 ですから、私、考えてみました。
 どうやったらネギ先生から女の影を払拭できるかって。
 簡単なことでした。私以外の女を、ネギ先生の周りから遠ざければいいんです。
 さしあたっては明日菜さん。次はあの吸血鬼です。
 あいつだけは、この私が直接手を下さないといけないみたいですが」

のどかは制服の内ポケットをまさぐっていた。

「私はネギ先生のことを一番愛している。
 誰にだって渡しはしない……。渡すものか……」

楓は思わず身が震えた。
宮崎のどかとは、ここまで黒く煮えたぎった愛を抱く女だったのか?
楓が知っていた宮崎のどかとは、どこにでもいる気弱で内気な少女に過ぎなかったのに。
もしも…、いや、そんなことは無いでござる……。
楓はある不安を抱いた。のどかの変化は突然変異ではなく、
女が本来持っていた性質が『読心能力』と云う偶然によって開花しただけなのではないか?
だとしたら、誰でも…恐らくは自分さえも、のどかや木乃香になりうるのではないのか?

楓が疑念を打ち消している傍でも、戦いは激しさを増していた。
戦場は図書館の屋上から内部へ、さらに地上へ移っていた。

「そろそろフィナーレの様ですね。行きましょう、楓さん」

のどかに促され、楓はよろよろと前に出た。

461 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:29:39 ID:QYmKbKQ80
図書館島を戦いの場所に選んだ時点で、既に勝敗は決していた。
ネギは復活したエヴァンジェリンのことで頭が一杯で、
地形というものをまるで考慮に入れていなかったようだ。

麻帆良学園図書館は、湖、つまり水に囲まれた場所にある。
氷の原料は無尽蔵にあるのだ。そしてエヴァンジェリンの属性は氷だ。
エヴァンジェリンは魔法を唱えることなく、指の動き一つで氷を作り出し、
ネギにぶつけていた。派手な魔法を唱えることはなくても、
マシンガンを乱射するに似て、ネギに直撃弾を与え続ける。
ネギは魔法障壁を展開してこれを防ぐが、魔法障壁を展開するのにも魔力が必要だ。
ネギは徐々に消耗の色を濃くしていった。

「ここまで良く頑張ったな、ぼーや。
 だが、これで私の勝ちだ。召喚『双龍』!!」

魔力パンチでネギを地上に叩き落としたエヴァンジェリンは、
氷系爆撃呪文でネギの動きを封じると、両手を大きく広げた。
細い腕のまわりに魔法陣が幾層も重なると、一筋の閃光が湖に走った。

湖が白く発光。

次の瞬間、氷の鱗を持つ巨大な龍が2匹、湖面から立ち上がった。
龍というより、大蛇の方が的確な印象を与える。ジャンボジェット機でさえ、
アオダイショウが生卵を飲み込むように丸飲み出来るかもしれない。
この魔法も、湖という無尽蔵の氷原材料あるからこそ唱えられる技だ。
つくづく今夜のネギはツキがなかったと云えよう。

462 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:31:23 ID:QYmKbKQ80
「いけ、可愛い子供達」

ネギの表情が絶望に歪むのを確認してから、エヴァンジェリンは龍に命令を下した。
一端上空に昇った氷龍は獲物を見定めると急降下。
ネギがいた地点に落着すると、氷の大爆発を起した。
それを見届けてエヴァンジェリンは地上へ降りた。
氷柱が立ち並ぶ林の中に倒れたネギを見つけると、ゆっくりと歩み寄った。

「やっぱり、マスターには手も足も出ませんでしたね」
「…その手も足も無いぞ、ぼーや」

ネギはエヴァンジェリンを見上げて微笑んだ。
いつもの、ネギの笑顔だった。ネギの状態を見て皮肉を云う勝者の方が、
込上げるものを堪えて眉をひそめている。

ネギの身体は壊れていた。『双竜』の威力が大きすぎたのだろう。
両手両足が根元から砕け、尖った氷が脇腹を切り裂いていた。
幸い氷の低温が傷口と血管を凍らせた為に出血はないが、予断を許さぬ状況だ。

「なぜだ、ぼーや。
 お前の力では、学園結界から解放された私に及ばないことはわかっていただろう。
 なぜ私に戦いを挑んだのだ?」
「ほんとう、なぜでしょうね」

463 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:32:44 ID:QYmKbKQ80
痛みが走ったのか、顔をしかめてネギは呟いた。
無理矢理笑顔を作ると、溜息をつくように云う。

「僕もわかっていたんです。こんなのは自然じゃないって。
 好きな人をつらい目に合わせるなんて、自然な愛し方じゃないって。
 だから誰かに止めて欲しかったし、止めて貰わなきゃならなかった。
 僕自身で止められるなら、こんな楽な話はありませんからね」
「勝手な奴だな、ぼーやは!
 私をさんざんおもちゃにしておいて、その癖、私を頼るなんて!
 どこまで私に甘えたら気がすむんだ!!」

エヴァンジェリンは怒っていた。鋭い口調でネギを断罪すると、
小柄な彼女よりも遥かに小さくなったネギの襟首をつかんだ。
そして殴ろうと右手を振り上げ……振り降ろすよりも先に蒼眼から涙が溢れた。

「なぜ、泣くのですか?」
「……馬鹿! ぼーやは、本当に馬鹿だ!」

エヴァンジェリンはネギを抱きしめた。強く、きつく。
そうしなければ、ネギが自分の腕の間から砂となってこぼれおちてしまいそうだったから。
ネギの体温を確かめる為に薔薇色に上気した頬をこすり合わせる。
涙の雫が凍ったネギの髪を溶かしはじめた。

464 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:34:32 ID:QYmKbKQ80
どのぐらい、抱きしめていたのだろうか。
ふと気が付けば、麻帆良学園に無数の星屑が舞い降りていた。
それが建物や電灯の明かりだと気付くのに暫く時間がかかった。

「いつのまにか学園結界が復活したようだな」

エヴァンジェリンは遠景を一望してから瓦礫の中に横たわるネギに視線を戻し、軽く笑った。
停電が解除されたと云うことは、電気の力によってエヴァンジェリンの力を
押さえつけていた学園結界も機能を取り戻したことを意味する。

「今度は間に合ったな。前の戦いの時は、
 良い所で学園結界が復活して私が戦闘不能になったからな。
 今回は文句はいわせないぞ。私の勝ちだ。さて、近衛木乃香を呼んでこなくてはな。
 あいつに回復魔法をかけてもらわないと、ぼーやが危ない」

「もうあなたがネギ先生のことを心配する必要はありませんよ」
「え?」

エヴァンジェリンが振り向く間も無く、銀色の閃光が走った。
それは吸血鬼の少女の背中に吸い込まれていた。
漆黒のマントを突き破り、夜目にもなおまばゆい銀色が
エヴァンジェリンの胸から突き出ている。血の飛沫が宙を舞い、
何が起こったかわからず唖然とするネギの頬にかかった。
もしネギが五体満足だったならば、無詠唱魔法などで反応出来ただろう。
しかし、今のネギは四肢を失い、魔力もほとんど底をつきかけていたから、
只、目の前の光景を見守るしかなかった。

465 名前:夢終わる時 後編[] 投稿日:2005/09/03(土) 00:36:18 ID:QYmKbKQ80
エヴァンジェリンは呆然とした表情を浮かべたまま、前のめりとなって倒れた。
『闇の福音』として世界から恐れられ、かつ歴史さえも当人の我侭で
塗りかえてきた少女の最期としては、あまりにもあっけないものだった。

ネギが見たもの。
それは、宝飾と精巧な銀細工が施された短剣を持つ宮崎のどかと、
ネギ同様、キツネにつつまれたような表情でのどかを見ている長瀬楓だった。

「流石、美……なんでしたっけ。まぁいいです。
 流石、バチカンの密命を受けたシスターの持ち物です。
 吸血鬼には絶大な威力を発揮しますね。真祖状態ならいざしらず、
 登校地獄と学園結界で人間並みに弱ったあなたにはきつかったですか?
 こんなことなら、あのシスターもさっさと隙を見て刺せばよかったのに。
 度胸が無かったのでしょうか? 空気に同化しすぎて物が持てなかったとか?
 そう思いませんか、ネギ先生?」

短剣の刀身についたエヴァンジェリンの血と肉片を指ですくい取りながら、
のどかは夢見る少女と化してさえずった。後では長瀬楓が引きに引いているが、
のどかは唯一の観客の反応などどうでもいいのだろう。
倒れたエヴァンジェリンの脇に体育座りすると、
「吸血鬼はしぶといですからね」などと呟きながら、憑かれたように何度も何度も背中を刺した。
もう大丈夫、と納得したのか、のどかは立ち上がった。
頬にも制服にも返り血が飛び散っているが気にする様子はない。
脇腹を蹴り上げて反応が無いのを確かめると、
最後の一突きを入れて、エヴァンジェリンの傍を離れた。