尼崎事故・株主責任


尼崎事故・株主責任

株主責任の行方
ライブドアとフジテレビの一件で、ようやく日本人も株主としての権利について真剣に考えるようになりました。一方で、株主の責任については何ら真剣に考えられてはいません。

臨界事故と株主責任

1999年9月30日、茨城県那珂郡東海村にあるJCO(株式会社ジェー・シー・オー)の核燃料加工施設で臨界事故が発生しました。JCOの株式は住友金属鉱山株式会社が100%保有していました。日本の社会の常識で考えれば、JCOが住友金属鉱山の支配下にあるのは明白です。さて、仮に「住友金属鉱山がJCOに対し、安全性よりコストダウンを強く求めていた」としたら、住友金属鉱山の株主責任はどうなるのでしょう?

答えは、株主は責任を問われません。何故ならそれは、株主として当然の権利だからです。株主は、住民が何万人被爆しようが、基本的に一切の法的責任を負わなくてよいのです。株主責任とは事実上、株価の下落リスクを負うことのみです。さすがに住友金属は有名な企業グループなので、グループの評判が下がるのを恐れたのか、JCOを支援することにしました。ただ注意が必要なのは、「支援」とはあくまで任意であることです。

子会社の不始末の責任を親会社が負う、日本の企業グループの美徳とされたこの様な習慣も、今後は通用しなくなります。もし住友金属鉱山の株主が外資であれば、「住友金属鉱山に一切の責任は無い、JCOを支援することで住友金属鉱山経営陣は株主に損害を与えた。損害の賠償と支援の打切りを求める」として株主代表訴訟を起こしていたかも知れません。そして今後は外資だけでなく、国内の出資者も同じ理論で動くようになるでしょう。自分が株を持っている間だけ安全ならば良い、将来の事故などどうでもいいから今を儲けろ、と。

JRグループの株主

今やJR西日本もJR東日本も、株の約3割を外資が保有していると言われています。JR東日本のホームページを見ると、英文ページが大変に充実しています。時に日本語ページより詳しいのでは、と思うことすらあります。これは勿論、外国人投資家に向けた投機情報開示であると思われます。

外資に拘らず、投資家は儲けるためにJRグループに投資しています。彼らは収支を上げることを強力にJRグループに求めていると言われています。具体的にはJRに対して儲けるための投資を求め、直投儲けにつながらない投資を控えることを求めています。「直投儲けにつながらない投資」とは、特に閑散ローカル線への設備投資のことのようです。JR西日本の地方線区では、おおよそ月に一度、昼間時間帯を全面運休にして保線工事を行ない、コストダウンを図っていますが、「列車を走らすための保線工事で列車を運休にするのは本末転倒」という批判が出ています。沿線住民から反発を招くような強引な手法からも地方線区切り捨ての方針が伺えますが、この方針にも株主の意向が強く働いていると言われています。

ここまでして出資家は経営に介入しています、では「株主に尼崎事故の責任を負わせれば良いか?」と言えば、そうも行きません。資本主義の根幹に拘わる問題ですから、資本家・経済界が猛反発します。ほぼ全ての大企業に事故や環境汚染のリスクがあります、その責任を負わされると聞けば誰も株なんか買わないでしょう?

個人投資家が増殖していると言われる昨今、この傾向は今後さらに進むと考えられます。そしてこの傾向を批判する声は大きくありません。JR西日本の株主への批判さえ、マスコミからは全く出てこないのが現状です。今後はヒューザーのようなロクデナシ企業への勝ち逃げ投資が褒め称えられる世になってしまうのかも知れません。

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