メイ面の歴史
メイ面更新停止後に、ラウンジスレに書き込まれた日記。
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283 :落人日記 1:2011/11/02(水) 17:33:58.84 ID:b2ZqKWxw
私が戦場跡を訪れたのは、終戦から二カ月程経った初秋の頃だった。
夏の終わりに戦争を終え、蝉しぐれが聞こえていた戦場が、今では蟋蟀の鳴き声に代わっている。
風も冷たくなり、あれから時間が経った事を思わせる。
だが、メイ面は再開していない。
そんな戦場跡に今更訪れたのは、落人狩りではなく、戦の再開を期待したわけでもない。
己鯖戦記の終焉となるメイ面、そして各々の武将達のその後を、戦記として取りまとめるためだった。
誰もいないと思われた戦場跡だったが、まだぽつぽつと人影は見える。
知った顔もいくつか見たが、とりわけ目についたのは、河原で延々と石を積み上げていた九州男児、メイであった。
まばらな大きさの石は、4,5個積み上げては、自然な崩壊を繰り返しているが、
メイは、延々と積み上げと崩壊を繰り返していた。
耳を澄ますと、彼は消えてしまいそうな声で、歌と思わしき文言を口にしている。
「一重組んでは秘密のため……」
気味が悪かったが、彼に声をかけずに戦記を取りまとめるのも、違和感がある。
「メイ殿」
声をかけるが、メイは反応を示さない。
「二重組んでは杉のため……」
「メイ殿、メイ殿、おい、メイ!」
無視された気がして、強引に肩に掴みかかる。
が、メイの身体を捻り上げる前に、私の腕を掴む者があった。
東郷平八郎である。
「……壊れてしまったのだ。石塔が出来れば、面が生き返ると思っている」
東郷は無念の表情を浮かべ、小さく首を左右に振る。
愕然と肩を落とす私に対し、東郷は言葉を続ける。
「ちなみに、君は今更何をしにここへ?」
「皆のその後を取りまとめております。塵も残さず消えゆくには惜しい為」
「宜しい。ならば、私が案内しよう。幾名かは、その後を知っている」
渡りに船であった。
彼の申し出を有り難く頂戴し、行脚は始まった。
294 :落人日記2:2011/11/04(金) 00:31:21.11 ID:KarzpxXM
東郷の案内で訪れたのは、戦場から遠く離れた山岳部の田舎村だった。
電車で4時間、バスで2時間。着いた頃にはもう夜中で、
街灯の明かりもなく、冷たい風の吹くその村には、寂しさを感じる。
「この家で養生している男がいる」
東郷が案内したのは、茅葺の貫録がある古民家だった。
勝手に戸を引いて中に入る彼に、私も付き添う。
「体調の方はいかがか?」
ふすまを開けて一室に入る。
部屋の中央では、痩せこけた中年の男が静かな寝息を立てていた。
織田である。
「この村に来てから病状は落ち着きましたが、あまり良くはありません」
織田の傍に座していた緑亀が振り向き、僅かに首を振る。
「左様か」
東郷はちらと織田を見やると、縁側に出た。
私と緑亀もそれに続く。
「……織田は、戦後間もなく体調が悪化してな。
原因は言うまでもないだろうが、酒だ」
東郷が嘆息する。
「お医者様の話では、酒が原因で腫瘍ができていると。
韋駄天殿、石碑元帥殿の行方も知れない中、
織田殿にもしもの事があっては、軍事国念願の統一は……」
悔しげに肩を揺らす緑亀に対して、完治しても当然の如く滅亡するのではとは、さすがに言えなかった。
心なしか、吹く風が冷たくなった気がする。
電車の終点駅で買った土産のZ旗を織田の枕元に置き、私達は古民家を後にした。
296 :落人日記3:2011/11/04(金) 01:40:04.64 ID:KarzpxXM
メイ、織田と、変わり果てた姿を見続けて、切ない気持ちを紛らわしたかったのかもしれない。
私が街に出たいというと、東郷は歓楽街へと案内してくれた。
街はまだネオンの彩りを纏い、若者の嬌声が響き渡る。
普段なら煩わしく感じるが、今はどこか心地良かった。
東郷が案内してくれたのは、こじんまりとした雀荘だった。
店に入ると、一卓だけ囲まれており、そこにいる全員を、私は知っていた。
タマーキン、マルボロ、かっぱ、ピヨ彦である。
よく見れば、カウンターの中にいる店員はシェリーだった。
「戦争が終わってからも、月に二回は、こうやって集まって打ってんだよ」
「もう好き者しか残っていないけれどね」
「ちょっと前まではまめいどさんもいたけれど、最近は見ないな」
タマーキン、マルボロ、かっぱが、たばこを灰皿に押し付けて語る。
「まあ、こんな薄汚い所、女の子は来ない方が良いさ」
シェリーは苦笑しながら、客に出す飲み物用のコップを磨いている。
「ここはシェリーとピヨ彦の店なのか?」
東郷が尋ねる。
「お店を開いたのはシェリーさんです。
私は、いやぁ、大学生だったじゃないですか。
就職活動に失敗した所で、この店の事を知って。
用心棒兼卓の補欠として、働かせてもらっています」
客だけではメンツが集まらず、席についていたピヨ彦が、恥ずかしそうに頭を掻いた。
用心棒としての得物が、近くの壁に掛かっている。
バールだった。
その後、彼らの現状を幾つか聞いて、私達は店を出た。
まず私が外に出る。
その瞬間、誰かが背後を横切った。
反射的に振り向くのと、ぐしゅっ、という肉を切り裂く音が聞こえるのは、ほぼ同時だった。
「あ……? あ……?」
東郷が首元を抑えながら、膝を地に落とす。
ぱっくりと開き、黒い血で染まった首からは、ひゅーひゅーと空気が漏れる音がする。
「ハ、ハハ……ざまぁねぇな、東郷!」
私の背後を横切って、東郷をナイフで刺した銀髪の男が甲高い笑い声をあげる。
「カル……ロ……?」
私の言葉に、彼はにぃ、と口の端を開いて振り返った。
狂気の顔は、鮮血で染まっていた。
353 :落人日記4:2011/11/09(水) 19:51:51.84 ID:uPEgavRC
騒ぎを聞き付けて、店内からバールを持ったピヨ彦が飛び出すのと、カルロが逃走するのはほぼ同時だった。
「と、東郷さん……!?」
「駄目だ。これは致命傷だ。それよりも……」
虫の息で足元に倒れ込んでいる東郷に驚くピヨ彦に対し、私は大げさに首を振る。
それとほぼ同時にコートを脱ぎ棄てて、逃走したカルロを追った。
ピヨ彦は、私達と東郷を交互に見ていたが、
店内から遅れてシェリーが出てくると、東郷の看取りをシェリーに任せ、私の後を追って走り出した。
カルロは、すぐに追い詰める事が出来た。
何度か小路地を曲がる彼を見失いそうになったが、最後に曲がった路地の奥が行き止まりになっており、
逃げ場を失った彼は、私とピヨ彦に追い詰められた。
血まみれ、荒い息でいきり立っている彼の姿に、私は恐怖心と共に強烈な尿意を催した。
「カルロさん、どうして……!」
ピヨ彦がバールをまっすぐにカルロに向ける。
「復讐だよ……あの三つ巴の戦に負けて、皆俺の元を離れやがった。
東郷……あいつさえいなければ、ロッソストラーダは! 俺の配下は……!
俺は、全てを失わなかった……!」
血走った目で思いの丈をぶちまけるカルロは、ナイフを手に、一歩、二歩と私達に近づいてくる。
戦うしかないようである。死ぬかもしれない。
僅かにブリーフを黄ばませながら、私は両手を握りしめた。
「わんっ!」
互いに襲いかかろうとした刹那、我々の背後から一匹の犬が飛びだし、カルロにじゃれついた。
「め……めそ……?」
「はっはっはっ!」
「あふぅ」
ぺろぺろとめそに舐めまわされたカルロは、脇を舐められた際に、僅かに悩ましい声を立てる。
「そうか……お前は、お前だけは最後まで、俺と一緒にいてくれたんだな……あうっ……」
膝を折り、めそを抱きしめながら泣きじゃくるカルロを、私は茫然と見ていた。
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえた。
――戦争から、長く離れすぎたのかもしれない。
殺し合いを久々に目撃し、興奮の収まらなかった私に、睡魔は訪れなかった。
深夜三時頃までホテルのベッドで横になっていたが、興奮を落ち着ける為、私は近所の公園に出かけた。
噴水に面したベンチに腰掛ける。
皆変わってしまった。そんな事を考えながら、深く息を吐き出す。
「あら……あなたは……」
不意に声を掛けられ、その方向を見やった。
露出の大きな服を纏った、濃い化粧の珊瑚がいた。
368 :落人日記5:2011/11/10(木) 16:32:31.92 ID:0c8vFI56
俺が皆のその後を纏めていると話すと、珊瑚は隣に腰掛け、ぽつりぽつりと現状を話してくれた。
この日の珊瑚は、キャバレーでの勤務を終えた帰りだった。
戦時中も副業としてキャバクラで働いていたが、戦が無くなってからは収入も細り、
今では完全なるキャバクラ嬢となったそうだ。
「これでもお店のナンバーツーなんだから」
言葉こそ威勢が良かったが、口調に力はなく、表情にも疲れが充満している。
落ち目、という文言が私の脳裏をよぎった。
珊瑚に礼を述べて、ベンチから立った。
だが、それと同時に彼女が私の服の裾を引く。
「ねえ。明日お店に来ない? お店でも……その後でも、色々楽しいと思うんだけれど」
言葉の途中で溜めを作って、上目遣いで私を見てくる。
ワニのような、濁った目だった。
己鯖での戦の日々では、彼女からこのように見られた事も、ここまで近づいた事もない。
彼女も大変なのだろう。
私は首を横に振り、公園を後にした。
翌日。
寝付くのが遅かった為か、少々寝過ぎたようである。
起きてすぐにテレビをつけると、永井えいじがウキウキウォッチングしていた。
ホテルのラウンジに降りて、ソファに深く腰掛ける。
東郷が死んでしまった為、新たな武将の足跡を追う事もできない。
暫し今後について考えた末、一度事務所に帰る事にした。
武将列伝の編集スタッフは私だけではない。新たな情報が入っているかもしれない。
胸ポケットから携帯を取り出し、スタッフにその旨を告げ、私はホテルを出た。