水素原子の例から方位量子数、磁気量子数のイメージを掴む


量子力学超入門


水素原子の中の電子

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波動方程式の大まかな意味は一項目の運動エネルギーと2項目の位置エネルギーの和は全エネルギーであるということです。これをベースに水素原子の電子の状態をイメージ的に捉えてみます。

電子のエネルギーは運動エネルギーと原子核が作るクーロン場の位置エネルギーの和です。電子が原子核に捉えられている以上、運動エネルギーが位置エネルギーを上回っているはずがないので真空から見れば電子のエネルギー E は負になります。E が負であればあるほど安定な軌道です。ですから、電子が一番安定な軌道は次の3点のせめぎあいで決まります。

  • 位置エネルギーを稼ぐためになるべく原子核の近くにいること
  • 運動エネルギーを押さえるためには波動関数の曲がり具合が小さい事
  • 定常波であること*1
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水素の電子軌道を動径方向(r), と角度部分(θ,φ) 方向に分けて解くと、模式的に表せば上図のようになります。

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絵の黒は正,灰色は負です。1s とか 3d の数字は主量子数です。まず基底状態の1s を見てみましょう。 電子軌道は原子核に近く,くびれがないことからこれが最低のエネルギーを持つことがわかると思います。 ちなみに s 軌道は球対称なのでY(θ, φ)は定数です。よってR(r)関数が全ての節を受け持たなければなりません。 2s や 3s を見ればわかるように節は必ず球面になります。

次に、2p 軌道を見てみると節が平面で動径成分の節ではなくY(θ, φ)が受け持っていることがわかります。さらに 3p 軌道では動径成分が受け持つ一つの節球面と角度成分が受け持つ一つの節平面があります。 p 軌道は角度成分が受け持つ節の数が一つです。二つの軌道は d軌道です。

節の数は主量子数で決まっていてそのうちいくつ角度成分が受け持つかという量子数 を方位量子数といい通常 l で表します。

動径方向の運動は r 方向の運動だけを見ているのに対し,角度成分の運動は回転の運動を見ていると考えれば、角度成分の波動方程式は角運動量の2乗項(回転エネルギー)を作用させた物であるはずです。

実際,角運動量は

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であらわされ、その自乗和を取ると

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で、変数分離した波動方程式と同じ形になります。

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この解は球面調和関数となり、次式のようになります。

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結局全軌道角運動量は √l(l+1)h/2π です。

次にmの意味を考えて見ましょう。球面調和関数のl=2 について眺めてみます。

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m に注目すると二つの事が見てとれます。

  • mが0以外の値を取ると複素成分が現れる。
  • 複素成分の位相はm とφに比例する。

波動関数は時間振動項を e^(-iωt) を持っているので位相が ωt±mφ となりある位相の点を目印に時間的に追いかけるとz軸を回転軸としてφ方向に回転する事になります。つまり、磁気量子数は角運動量のz軸方向の量子数です。

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古典的には電荷を持った粒子が回転すれば磁場が発生するので m を磁気量子数と呼んでいます。z軸の向きの選び方は任意ですが、選んだ z軸(大抵は磁場の方向を z軸とする)に対して原子は |m|≦l の磁気量子数を取る事ができます。

複数の電子を持つ系

電子が複数あると電子同士の反発を考慮する必要があります。

一般の原子では水素とは違ってエネルギーが主量子数だけではなく方位量子数 l にも依存します。2s 軌道は 2p 軌道よりエネルギーは低くなります。その違いは遮蔽効果にあります。2s 軌道は節平面をもつ 2p 軌道よりもより内側の原子核付近に電子が存在し,1s 軌道の電子によるクーロン場の遮蔽を受けづらくなっています。


光の選択則を理解する


*1 定常波であることという意味は古典的には次のように解釈されています。電子が軌道を一回りした時、位相が元の位相からちょうど2πの整数倍だけずれていないと時間平均した時にゼロになってしまいます。よって波数は飛び飛びの値しか持てません。