原子から分子へ


量子力学超入門


水素分子は原子核,電子が2個ずつ4つの粒子が絡む多体系で、正確に波動方程式を解くとこが原子に比べて格段に難しくなります。そこで既に分っている原子状態の軌道を足し合わせて結合定数を最適化する分子軌道法が編み出され,近似といえど分子の定性的な理解に役立っています。

分子軌道法では水素分子の波動関数は水素原子の1s軌道の線形和で表されます。

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c1, c2 はそれぞれ結合の強さを表しています。c1=1, c2=0 ならば分子に2番目の水素が関係していないので多分分子にはなりえません。c1, c2 の値によって波動方程式からエネルギーが決まります。もっとも安定なエネルギーになる時それが、この分子軌道の答えです。

水素分子の場合、対称ですから c1 = ±c2 です。分子の波動関数は2種類あり*1

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となります。ではこのどちらが安定でしょうか?波動関数の2乗は

quantum06_04.png

ですから、重なり具合 2φ1φ2 がキーとなります。

ここでも前のように電子の波動関数がなるべくなだらかで、ポテンシャルの恩恵を受けることが安定の条件になりますが、もう一つ,原子核および電子同士の反発を考える必要があります。

たとえば、適切な位置より原子間距離が短いと電子は両方の原子核からもらうクーロンポテンシャルの恩恵は大きくなりますが波動関数は急になるし、原子核同士ののクーロン反発も大きくなります。反対に原子間距離が長いと波動関数はなだらかで、原子核のクーロン反発が小さくなりますが、クーロンポテンシャルの恩恵が少なくなります。そうして適切な原子間距離に落ち着きます。

分子を結合する際、クーロンポテンシャルが低い部分は(原子核付近を除けば)中間点です。ここの電子の存在確率が大きければ安定に向かうことが予想できます。

下図のa) では原子状態でお互いの電子は重なり合っていません。ですから中間点の φ1φ2 はゼロです。 b) は上式のプラスの場合ですが、中間点の φ1φ2 は正で中間点の電子の存在確率を上の場合より増やします。かたや、c) はマイナスの場合で中間のところではゼロになり節面を形成し電子が存在できません。よって c) は原子であるより高いエネルギーをもち原子を結合させないので反結合軌道と呼ばれています。水素分子ではパウリの原理より2個の電子が結合軌道にちょうど入る事ができるので安定な分子状態になります。

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分子から金属へ


*1 一般的な本にはcが1/√2となっていますが本当にそうとは思えません。でもここでは cと置いても話に変わりがないのでそうします。