恋愛幻想ML文献情報


電車男の嫌オンナ論

AERA 2005.10.17 (2005). 「電車男の嫌オンナ論」.

  • 「電車男」をキッカケとして,オタク男が恋愛対象として見直されている。でも,それらの意見はオタクが脱オタクすることで,女性から相手にしてもらえるというもの。オタクとしてのアイデンティティを捨てて恋愛に走らせようというこれらのメッセージに対して,オタクからの反発があるらしい。オタク男のなかには,恋愛は自分にはむいていないし,割に合わないと思っている者が少なからずいるとのこと。
  • 以前お話ししたことがあるとは思いますが,恋愛幻想研究の展開として,恋愛に価値がおかれて,「恋愛幻想」がかなり共有されている社会の中で,恋人がいない人がどのような対処をしているかに興味を持っています。がんばって恋人を作ろうという人もいれば,自分はダメだと思ってしまう人もいるし,さらには,オタク的に恋愛を自分とは無関係のものと切り離す人もいるのではないかと考えています。でも,3つ目のオタク的な対処というのは,オタクに対するステレオタイプな見方なのかなとも思っていました。この記事には,オタク的対処の典型例が載っており,非常に興味深かったです。

Stability and change in attachment security across adolescence

Allen, J. P., McElhaney?, K. B., Kuperminc, G. P., & Jodl, K. M. (2004). Stability and change in attachment security across adolescence. Child Development, 75(6), 1792-1805.

  • 青年のアタッチメントの連続性に関する研究。青年のアタッチメントのsecurityの変化は,何によって予測されるか調べた研究。リスクのあるサンプルに対して,16歳時と18歳時に2回の面接(AAI)及び16歳時に実験場面の観察を行っている。青年が,重要な社会的関係を維持しながら,認知的,情緒的な自律を発達させる能力に影響を与える要因によって,アタッチメントのsecurityの変化は予測されるという仮説に基づき,(1)関係要因(母親との相互作用時の行動,母親との関係の自己報告),(2)内的要因(抑うつ),(3)社会環境要因(家族の貧困状況)が,アタッチメントのsecurityを予測するかを重回帰分析により検証している。結果,アタッチメント得点は,(1)過度に個人化した行動,(2)抑うつ,(3)貧困状況が高いと有意に低下していた。過度な個人化は,自律(autonomy)の過程において,親との関係を再確立することを妨げると考えられる。また,抑うつはアタッチメント対象によっても和らげられないストレスを作ると考えられる。貧困は,青年の情動制御能力を超えるようなストレスをもたらす可能性がある。
  • 青年のアタッチメントスタイル(パターン)の変化について,縦断的に検討した研究は少ないので,貴重なデータ。特に,AAIについては,データ収集がかなり大変なので,相当な労力がかかっているはず。青年期特有の自律(自立?)の過程をモデルに組み込んでいるのは興味深い。青年期をInternal working modelsの再編する時期と見なし,その時期に何らかの原因で親が安全基地としてうまく機能していないと,securityが低くなるというモデル。従属変数として,様々な要因を取り上げているのはよいが,親との関係に関する変数があまり効いていないのは,残念。全体として,モデルもデータも良い研究。

Beauty, gender and stereotypes: Evidence from laboratory experiments

Andreoni, J., & Petrie, R. (2004). Beauty, gender and stereotypes: Evidence from laboratory experiments. Unpublished Manuscript.

  • 外見的魅力の程度と性別によって他者からの信頼度がどう変化するかを分配ゲームを用いて検討した実験研究。実験条件として、共有財産への貢献度の情報が明確であるか不明であるかが操作されている。コンピュータの画面に対戦相手の顔写真が表示され、貢献度が明確である条件では、各対戦相手の共有財産への前回の投資金額も表示された。実験参加者の外見的魅力は、別の集団に対する質問紙調査で評定された。個人の貢献度が不明な条件では、外見的魅力が高い人はそうでない人よりも最終的に得た金額が多かった。しかしながら、個人の貢献度が明確である条件では、外見的魅力が高い人はそうでない人よりも最終的に得た金額が少なかった。この結果は、美人ステレオタイプと社会的期待理論によって説明されている。すなわち、人は「外見的魅力が高い人は利他的である」というステレオタイプにもとづいて外見的魅力の高い人を信頼し協力するが、貢献度に関する情報がある場合には、ステレオタイプによる期待とくらべて利己的に見えるため、次第に協力しなくなると考えられる。また、情報の有無と性別の交互作用効果(*)も見られた。貢献度に関する情報がない場合には男性よりも女性の方が最終的に得た金額が多かったが、情報がある場合には性差は見られなかった。また、女性は情報の有無によって最終的に得た金額に差はなかったが、男性は情報がない場合よりも情報がある場合の方が最終的に得た金額が多かった。この結果も「男性は利己的である」というステレオタイプと実際の振る舞いのズレによって説明されている。*Wilcoxon の検定を条件ごとに繰り返しているので微妙な結果である
  • ステレオタイプによってどう評価されてしまうか? ではなくて、そのステレオタイプとのズレによって他者の反応がどう変わってくるか? に注目した点が面白い。ただし、要約では省略してしまった手続き上の問題があるので、結果をそのまま受け入れることはできない。1 セッション 20 名の実験参加者は 5 人一組で対戦し、8 試行ごとにグループ替えを行った。そして、異なる 5 つのグループで対戦したところでセッション終了となった。つまり、実験参加者は、最低 1 人以上の別の実験参加者と 2 回以上対戦していることになる。これは特に情報あり条件では重要な問題である。また、要約でも少し触れたが、分析においても Wilcoxon の検定を条件ごとに繰り返していたり、心理学者からすると思わず頭を抱えたくなる部分があった。内容面で文句をつけるとすれば、性別の影響について結果を半分無視した考察がなされている点が指摘できる。筆者らは「情報がない場合には女性の方が有利だが、情報がある場合には男性の方が有利になる」と述べているが、結果は(少なくとも後半部分については)それを示していない。実際の数値を見てみると情報なし条件での男性の利得が他のセルよりも有意に低い結果となっている。さらに、情報なし条件での利得の性差に関して、「女性は利他的である」というステレオタイプに言及しているのに、情報あり条件で外見的魅力の場合と同じメカニズムによって女性の利得が下がらないことも無視されている。雑誌に掲載されていないだけあって(?)、つっこみどころも満載な論文だったが、データそのものは面白いと思った。

Inclusion of other in the self scale and the structure of interpersonal closeness

Aron, A., Aron, E. N., & Smollan, D. (1992). Inclusion of other in the self scale and the structure of interpersonal closeness. Journal of Personality and Social Psychology, 63(4), 596-612.

  • 自己拡張理論のInclusion of Other in the Self(他者を自己の中へ取り込む)現象を測定する尺度を提案し、信頼性や妥当性について検討した論文。既存の親密さ指標としてRCI尺度(Berscheid, Snyder, & Omoto, 1989)とSternberg(1986)の愛の三角理論から持ってきた項目などを取り上げ、青年と中年以降を対象にIOS尺度との関連を見ている。

テレビドラマのメッセージ―社会心理学的分

岩男寿美子. (2000). テレビドラマのメッセージ―社会心理学的分析. 勁草書房.

  • もしかしたら有名なのかも知れませんが,私は知りませんでした。マス・メディアの効果研究の流れで,日本のテレビドラマの内容分析をしています。1977年から1994年までの間に6回分析して,時代による変化もとらえています。分析する対象は,暴力描写と性描写です。やはり,性描写は,時代が進むにつれて多くなっているようです。恋愛や性についてのイメージに対するメディアの影響を考えるうえで,役立ちそうです。

失恋コーピングと精神的健康との関連性の検証

加藤司. (2005). 失恋コーピングと精神的健康との関連性の検証. 社会心理学研究, 20(3), 171-180.

  • 失恋に対するコーピングについての項目を収集・分類した後,精神的健康との関連を検討した.失恋相手への恋愛感情が失恋コーピングに影響し,失恋コーピングが失恋後の精神的健康に影響する,失恋相手への恋愛感情は精神的健康にも直接影響するというモデルを検討した.短大・大学生540名に調査を行い,失恋経験のある425名を分析対象とした.調査では,(1)失恋に関する基本的項目(経験の有無,恋愛期間,回復期間,失恋形態,失恋の影響)(2)失恋相手に対する愛情,(3)失恋コーピング,(4)ストレス反応,をたずねた.その結果,失恋コーピング尺度は,6因子(未練,敵意,関係解消,肯定的解釈,置き換え,気晴らし)に分かれた.因子間相関があることから,因子分析によりこれをさらに3因子(肯定的解釈,置き換え,気晴らしからなる“失恋からの回避”,敵意,関係解消からなる“失恋相手の拒絶”,“未練”)にまとめた.構造方程式モデリングの結果,失恋相手への恋愛感情から3つの失恋コーピングに有意な正の因果係数があった.また,拒絶と未練からストレス反応・失恋からの回復期間に正の因果係数,回避から回復期間の負の因果係数が有意だった.さらに,男女別,失恋形態別(関係が形成されてから関係が崩壊した離愛,形成されずに終結した片思い)の分析を行った.男性でのみ恋愛感情から回避・拒絶のパス,拒絶から回復期間のパスに正の因果係数があること,女性でのみ拒絶からストレス反応に正のパスがみられた.失恋形態別では,離愛群のみ恋愛感情から拒絶への正のパス,恋愛感情からストレス反応への負のパス,拒絶からストレス反応・回復期間に正のパスがみられる,という特徴があった.失恋コーピングが心理的ストレス反応・回復期間といった精神的健康に影響を及ぼすことが示唆された.失恋コーピングのあり方,失恋コーピングと精神的健康に及ぼす影響について,性差や失恋形態による違いを考察した.
  • 調査では,(1)(2)(3)について,現在までに最もつらかった失恋経験を想起させた後,失恋後にどう考えたか,行動したかを回答させている.(4)は明記されていないが,回答時の状態について回答していると思われる.このようなたずね方だといつ経験したかがまちまちなので,期間を限定して最近の失恋経験についてたずね,それがその後のストレス反応に影響するかを調べた方が良いかもしれない.また,36項目の失恋コーピング尺度を6因子にまとめてから,さらに3因子にまとめなおしてSEMに使っている.6因子をモデルに含めた場合にはどのような結果になったのか気になった.さらに,心理的ストレス反応には抑うつ,不安といった情動反応,ひきこもりなどの行動反応,身体的疲労感などの身体的反応が含まれている.これらは質的に異なるので,別々の因子としてモデルに入れてみてはどうかと思った.

Attachment security, compassion, and altruism

Mikulincer, Mario, & Shaver, P. R. (2005). Attachment security, compassion, and altruism. Current Directions in Psychological Science, 14(1), 34-38.

  • アタッチメントと思いやり(compassion)、利他主義に関する最近の研究を紹介。安定型(secure)のアタッチメントスタイルの人は、不安定型の人(回避型 and 不安型)よりも他者に共感し、サポートを与える、他者の苦痛に対する反応の心理的メカニズムは、同じ不安定型であっても回避型か不安型かで異なると予測した。つまり、回避型の人は、他者の苦痛と距離をおいて他者への共感や思いやりを減少させるが、不安型の人は他者の苦痛に対して個人的苦痛を感じやすく、個人的苦痛をともなって他者の苦痛に反応すると予測した。実験的な検討(安定に関連する単語を閾下接触させる認知的パラダイム)などによって、アタッチメントの安定感が活性化されると、安定型の人のように反応することが示された。たとえば、思いやりの感情が高まる、慈悲深さ(親しい人への関心)、普遍主義(人類への関心)といった価値志向性が高まるなどである。さらに、実験室以外の場面で利他的行動(例:献血、高齢者の世話)との関連を検討し、回避型だと利他的行動をしないこと、不安型だとボランティア行動への自己中心的な動機を持つことが示された。苦痛にある人を援助するかの判断を取り上げた研究では、アタッチメントの安定感を閾下で活性化すると苦痛を経験している人を援助したいと思うことが示された。アタッチメント理論は、思いやりや利他主義の発達的起源、社会的・関係的起源の有効な概念的枠組みを提供していると結論した。
  • アタッチメント理論はさまざまな言質にささえられて理論的な部分に厚みがあるし、認知的パラダイムを使った実験など複数の方法で証拠を出しているのがなによりの強みだと思う。結論で、思いやりのある行動をとることでアタッチメントの不安定さが軽減されるのかを調べるのはおもしろいとか、さまざまな技術・経験が安定感を高めるのかを調べるのはおもしろいなどとあった。アタッチメントスタイルは安定していて、不安定型の人は不安定型なりの適応の仕方があるのかと思っていたが、できれば安定していた方がよくて、アタッチメントの不安定さは対処可能なもの、ととらえているように思った。2003 年の AESP にまとめ論文を書いているそうなので読んでみようと思う。

最近の青年の結婚観と恋愛に基づく成長

宮下一博. (2001). 最近の青年の結婚観と恋愛に基づく成長. 青少年問題, 48(3), 16-21.

  • 内閣府所轄の青少年問題研究会という団体が出している雑誌。前半で,総務庁青少年対策本部による調査結果から,青年の結婚観の特徴を考察している。後半 では恋愛に基づく青年の成長について,心理学の研究から考察している。総務庁青少年対策本部が実施した第6回世界青年意識調査(1997年度実施)では,日本を含む11の国(日本,米国,英国,韓国,スウェーデン,タイ, ドイツ,フィリピン,ブラジル,フランス,ロシア)で結婚ついての意識をたずねている。結婚すべきかどうかの意識について,肯定的意見(「結婚すべき」 と「結婚した方がよい」)は,日本では70%程度で,韓国,ロシア,タイと近い値となっている。欧米は30~50%低い値になっており,フィリピンは 90%と非常に高い。諸外国の中では日本の若者は結婚に肯定的であるようだが,過去3回の調査を見てみると肯定率は減少し,否定率が増加している。男女 の結婚観の違いを見てみると,ドイツとロシアを除いて,男性の肯定率が女性よりも高い傾向にある。日本でも同様の傾向があり,男性(73.3%)は女性 (64.1%)よりも肯定率が高い。後半は,青年にとって恋愛はどのような意味を持つのかをレビューしている。恋愛関係を持つことが青年の精神的健康と関係があるという研究が多数ある。さ らに,失恋の否定的,肯定的の両側面をあつかった研究を紹介し,失恋が否定的な影響だけでなく,心の成長といった肯定的影響をもたらす可能性が示唆され ている。
  • 前半の報告に,御用雑誌の報告のためか,著者の専門外なのか,無難な考察にとどまっている。データ自体はおもしろいので,そちらを見た方がいい。この データは1997年のものなので,現在は2003年調査が最新。そちらをみると,結婚への肯定的意見は増加し,否定的意見は減少しているのがおもしろ い。「結婚すべき」という意見は17.6%→16.0%に減っているものの,「結婚した方がよい」は51.35→55.8%に増えている。結婚に対する 意識調査をいろいろ見てみると,どれもここ数年になって肯定的な方向に変化しているようだ。この傾向は考える価値があると思う。後半は,失恋についての自分の研究を紹介したいために書いているような感じ。恋愛を肯定したいらしいが,相関研究しか出していないので,非常に弱い。恋 愛関係と精神的健康の関連を示した研究は,相関研究なので,因果が逆の可能性が高いと思う。

Gender, strategies, and contribution to public goods

Sell, J. (1997). Gender, strategies, and contribution to public goods. Social Psychology Quarterly, 60(3), 252-265.

  • いわゆる「共有地の悲劇」を題材とした実験研究。小集団の社会的ジレンマ状況における相互作用に集団成員の振る舞い(利他的 or 利己的)と性別がどのように影響するのかを分配ゲームを用いて検討している。他の成員の振る舞いによって被験者の振る舞いが影響を受けるというゲーム理論からの予測に加えて、相互作用に対する被験者の期待が形成される要因として性別を組み込んでいる。性別の影響については期待状態理論と社会的アイデンティティ理論から異なる仮説が導かれた。期待状態理論からは、同性集団において男性はより利己的に振る舞い、女性はより利他的に振る舞うと予測された。社会的アイデンティティ理論からは、男性は集団成員の性別によって振る舞いは変わらないが、女性は同性集団においてより利他的に振る舞うと予測された。分析の結果、利他的な集団においては利他的に、利己的な集団においては利己的に振る舞うことが示され、ゲーム理論による仮説は支持された。また、女性は集団成員の性別によって振る舞いが変わらなかったが、男性は同性集団においてより利己的に振る舞うことが示された。この結果は期待状態理論による仮説を部分的に支持するものであった。
  • ゲーム理論と社会心理学における相互作用理論を結びつけようとした研究。他者の振る舞いによって戦略が変わってくることは先行研究でさんざん言われてきたことだが、他者の振る舞いに対する期待がどのような要因によって形成されるのかを検討している点が興味深い。ただし、実際にやっていることはたいしたことではなく、分配ゲームに集団成員の性別という要因を入れてみました、というだけになっている。むしろ、理論的貢献に躍起になるあまり、実験とその結果にはあまり重きを置いていないような印象を受けた。しかし、ゲーム理論、期待状態理論、社会的アイデンティティ理論についてページを割いて説明してあるので、それぞれの理論の入門用にもいいのかもしれない。

Attachment style, excessive reassurance seeking, relationship processes, and depression

Shaver, P. R., Schachner, D. A., & Mikulincer, M. (2005). Attachment style, excessive reassurance seeking, relationship processes, and depression. Personality and Social Psychology Bulletin, 31, 343-359.

  • 学生カップルを対象に再確認傾向と、アタッチメント、抑うつの関係を検討した。研究1では72カップルを対象に質問紙調査。再確認傾向、相手の再確認傾向の知覚、アタッチメント、抑うつ、関係の質を回答し、相関、回帰分析で分析。研究2では、61カップルを対象にウェブを使った日誌法。上記の測度を2週間毎日回答してもらい、相関、階層的線形モデリング(HLM)で検討。その結果、おおむね、どちらの研究でも再確認傾向は抑うつ、アタッチメントの不安型(Anxious Attachment)、相手からみた再確認傾向の知覚と相関があった。また、再確認傾向だけが抑うつを説明するという結果はなく、むしろ不安型が抑うつを説明していた。関係の質は不安型と抑うつの関係を媒介していなかった。研究2の方では、前日にあった2者間の葛藤、アタッチメントの不安型が翌日の再確認行動を予測すること、男性回答者では不安型×葛藤の交互作用効果がみられ、葛藤を多く経験していて不安型が高いほど再確認行動をしていた。
  • 著者らは再確認行動を不安型の1側面ととらえている。別の理論をつくるよりも倹約性がよいとして、アタッチメント理論の中に取り込んでいる。実際、再確認傾向については理論的な部分が弱く、アタッチメント理論との関係についてもきちんと論じられておらず、関連を調べた研究も少ない。再確認傾向の実証研究をすすめてきた Dr. Joiner ラボの反応が気になるところ。なお、階層線形モデルは最近心理学でもよく使われるようになった手法。入れ子構造になったデータに使われる。ここでは、日常レベルのデータ(例:その日に行なった再確認行動)と特性レベルのデータを入れ子として考えている。

少女たちはなぜ H を急ぐのか

高崎真規子. (2004). 少女たちはなぜ H を急ぐのか(生活人新書 114). 日本放送出版協会.

  • 女子高生やその周辺に対して,性の問題を取材したルポ。著者は研究者でなく,ライターなので,理論を構築しようとかいう姿勢でなく,現状を捉えようと言う立場でかかれている。前半は,女子高生の語りをまとめたもので,後半は医学的,教育的な立場からの意見や,様々なデータなどを載せてある。後半は考察が甘いし,「大人」の価値観で眺めている感がいなめないので,いまいちな部分が多いが,前半の女子高生の言説はなかなかおもしろい。特に興味深かったのは,次のような発言。P47-48「彼氏がいることがステイタス」:「彼氏がいることが,ブランド化してるっていうか,ブランドのバック持っているみたいな感覚なんじゃないかと思う」「…周りの目をいつも気にしてますよね。彼氏が欲しいんじゃなくて,1人でいるのがカッコ悪いみたいな。意識してなくても,潜在意識のなかではそういうのがある人,多いと思う。」後半の周囲の意見では,恋愛研究所アルス工房主催の板野博行さんという人の意見は,素朴だけど興味深い(しかし,なんてうさんくさい肩書きなんだ)。P114-115「人を愛してる自分が好き」:「好きっていうのが宗教になっていると思う。日本って宗教のない国なんで,何かに頼っていかざるを得ない。家庭がしっかりしていて親の価値観が強ければ,その制限内でしか動けないけれど,逆に枠があるから,最後はそこに頼ればいい。ところが,今みたいに父母の考え方がさほど価値観の柱としてたたない場合,自分のアイデンティティが,誰かを好きであることになってる可能性が大きい。人を好きになっている自分が重要なわけで,そこに相手の善し悪しは関係ないんです。」

日本における恋愛研究の動向

立脇洋介・松井豊・比嘉さやか. (2005). 日本における恋愛研究の動向. Tukuba Psychological Research, 29, 71-87.

  • 筑波大学の紀要論文ですが,立脇さんに抜き刷りをもらいました。日本の学会誌,学会発表における恋愛研究を全てレビューして,どのような研究がなされているか,また年代によってどのような変化があるかを示しています。日本の心理学における恋愛研究のデータベースとして重宝します。

児童・生徒の性―東京都小学校・中学校・高等学校の性意 識・性行動に関する調査報告 (2005 年調査)

東京都幼稚園・小・中・高・心障性教育研究会. (2005). 『児童・生徒の性―東京都小学校・中学校・高等学校の性意 識・性行動に関する調査報告 (2005 年調査)』. 学校図書.

  • 東京都幼稚園・小・中・高・心障性教育研究が3年ごとに行っている,性についての意識,行動の実態調査の結果報告書です。性交経験率は,これまでの上昇傾向に歯止めがかかって,2002年調査に比べて若干下がっています。