批判的読解 夏目房之助『マンガと「戦争」』(Y.K)


批判的読解 夏目房之助『マンガと「戦争」』(講談社 1997)講談社現代新書

1、著者の資料情報は不足、不十分ではないか?

 「7 終末としての「戦争」―『デビルマン』と『宇宙戦艦ヤマト』」以降の知識ははなはだあやしい。とくに「10 「戦争」と身体―『僕らはみんな生きている』と『新世紀エヴァンゲリオン』」においては、作品中にあらわれる推量の余地を要さないことがらについてあやまり(p166-p170)がみられ、作品をきわめていい加減に読んでいるのか、あるいは読んでいないか、疑われるほどである。

 著者の資料情報は「7 終末としての「戦争」―『デビルマン』と『宇宙戦艦ヤマト』」以降に関しては不足しているといわざるをえない。

2、著者は事実と違うことをいっていないか?

 『エヴァ』の世界では、「戦争」は自閉した個人のなかのトラウマのたたかいにまで退行している(p170)  ←誤っている

 「戦争」の定義があいまいなことによる論理のすり替え  トラウマをもった少年こそが「強い」(p167)という著者の想像を根拠とする

3、著者の推理・論議は非論理的ではないか?

 著者の議論のキーワードとして用いられる名辞は、その定義がさだかではなく、しばしば、同語多義的なものとなり、実質的に論理のすり替えが発生している。

「戦争」について

 1 手塚マンガと戦争―『幽霊男』と『来るべき世界』

  『勝利の日まで』 国家と国家の軍力をもった争い   『来るべき世界』 国家と国家の軍力をもった争い

2 戦記物ブームと『紫電改のタカ』

  『紫電改のタカ』国家と国家の軍力をもった争い ←第二次世界大戦   『少年忍者部隊月光』国家と国家の軍力をもった争い ←第二次世界大戦

3 水木しげると戦記マンガ

  『決戦レイテ湾 第六部 壮絶!!特攻(8)』国家と国家の軍力をもった争い ←第二次世界大戦   『総員玉砕せよ!』国家と国家の軍力をもった争い ←第二次世界大戦

4 戦記物とSF―『サブマリン707』

  『サブマリン707』小規模組織(船)と大規模組織の武力をもった争い

5 ガロとCOMの「戦争」

  『人類戦記』奴隷と支配者の民族解放をもとめた武力(?)をもった争い ←ベトナム戦争   『光る風』国家と国家の軍力をもった争い ←第二次世界大戦   『カムイ伝』階級と階級のあいだの武力的な階級闘争   『銃後の花ちゃん』国家と国家の軍力をもった争い ←第二次世界大戦

6 戦後世代の「戦争」マンガと『ゴルゴ13』

  『吾が母は』国家と国家の軍力をもった争い ←第二次世界大戦   『大きな魚』???   ※戦後の未亡人という言い方でしかあらわされていない。

  『ヴェトナム討論』奴隷と支配者の民族解放をもとめた武力をもった争い  ←ベトナム戦争   『学聖の星『70の部』ON THE BEACH』奴隷と支配者の民族解放をもとめた武力をもった争い ←ベトナム戦争

  『ゴルゴ13』国家と国家の軍力をもった争い、政治的組織内での武力ももった対立(内乱) ←アフリカ独立

7 終末としての「戦争」―『デビルマン』と『宇宙戦艦ヤマト』

  『デビルマン』ヒーローと集団の対立

  『宇宙戦艦ヤマト』小規模組織(船)と大規模組織の武力をもった争い

8 大友克洋と『AKIRA』

  『気分はもう戦争』国家と国家の軍力をもった争い   『DRAGON BALL』不特定多数の人を巻きこむ個人的闘争の態様   『AKIRA』不特定多数の人を巻きこむ個人的闘争の態様

9 神話とシミュレーション―『風の谷のナウシカ』と『沈黙の艦隊』

  『風の谷のナウシカ』国家と国家の軍力をもった争い   『沈黙の艦隊』国家と国家の軍力をもった争い

10 「戦争」と身体―『僕らはみんな生きている』と『新世紀エヴァンゲリオン』

  『僕らはみんな生きている』政治的組織内での武力ももった対立   『新世紀エヴァンゲリオン』 ヒーローと怪獣の争い         個人の精神的な葛藤

4、論は著者の意図した計画をどのくらい実現したか?

マンガによる戦後史の素描(意図)

メディアを介しての「戦争体験」

マンガに描かれた「戦争」イメージ(具体的な事例)

「7 終末としての「戦争」―『デビルマン』と『宇宙戦艦ヤマト』」以降に関しては満足な結果を得られていない。

そのおもだった要因は、(1)著者の資料情報の不足、(2)著者の議論のキーワードとして用いられる「戦争」が、しばしば、同語多義的なものとなり、あやまった推論を展開することとなっていることである。

メディアを介しての「戦争体験」として、マンガにえがかれた「戦争」のイメージをあつかうという趣旨をかんがみるに、直接の戦争体験をもたない戦後世代の論及に瑕疵を有するのは、著者の意図した計画を擁護するものではない。

著者の意図した計画はマンガによる戦後史の素描をおこなうことであったが、現在のところ、著者の計画は著者の年代の戦争およびマンガの理解を中心とした戦後史にとどまるものであるといわざるをえない。それは以下のような制約を本書に加えている。

(1)手塚治虫を中心としたマンガの理解(2)直接の体験を中心とした戦争理解(3)メディアミックスへの不理解    

以上

   

討論会「マンガ・アニメと戦争」班
班長 Y.K