グリーン革命


オバマ毎週ラジオ演説2009-06-06

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【第5回】 2009年06月17日

グリーン革命のヒントは地方自治体にあり! “太陽熱”に着目した東京都の先進度

東京都が太陽エネルギーの利用促進策を強化している。中でも、太陽熱利用で節約できたエネルギー量に「環境価値」をつけて金額に換算した上で、都が家庭から買い取る制度はユニークだ。公害対策でも先行したのは国ではなく地方自治体だった。東京都の取り組みには、グリーン革命のさまざまなヒントが隠されている。

 グリッドパリティという言葉がある。太陽光発電などの再生可能エネルギーの文脈では、発電コストが系統(グリッド)電力の価格以下、または等価になることを指す。これは需要家側からみて、系統電力の価格(電力料金)よりも安くなることを意味する。

 現在、日本の電力会社の電気料金は家庭向けで23円ほどだが、太陽光発電は46円(概数)ほどと言われており、コストを半分に下げないと、グリッドパリティは達成できない。 筆者らが企画し、4月に東京で開催された「低炭素経営研究会」で、東京都環境局都市地球環境部(再生可能エネルギー担当)の谷口信雄氏に講演を頂いた。

 本年4月から、「住宅用太陽エネルギー利用器機補助制度」が、2年間の予定で実施されている。太陽光発電システムと太陽熱利用システムを、2年間で4万戸に設置する計算で、約90億円の予算を準備、「目指せ!太陽エネルギー100万kW」と謳われている。

 今回の都の制度設計で、目を惹く特徴は2点ある。一つは、「太陽熱エネルギーシステムへの助成」であり、もう一点は、「グリーンエネルギー証書」(太陽エネルギーの利用で節約できたエネルギー量に認証機関が「環境価値」をつけて金額に換算した上で、東京都が家庭から買い取る制度)の活用だ。

 国の制度では、住宅で利用されている太陽エネルギーのうち、電気を作る太陽光発電にのみ補助が行われ、温水などの熱を利用する太陽熱システムには、補助が行われていない。谷口氏によれば、「国の制度は、産業政策の側面が強い印象がある」。太陽光発電は、国際競争にさらされている分野であり、経済産業省としても、国内の需要を喚起して、業界での設備投資や、新技術開発を後押ししたいところだ。

 一方、東京都の施策は、一義的には地球温暖化を防止するために、CO2削減につながる、太陽エネルギー利用を促進することにある。一部の集合住宅の場合など、建物や条件によっては、太陽熱利用のほうが効率が良い場合もあるのだ。

 興味深いのは、太陽熱利用システムの場合、これまで、システムから得られる、エネルギーの量の計測が行われてこなかったという点である。主にお湯として利用する場合、計測する必要性が低かった面がある。ただし、CO2の削減のための施策となると、どの程度のエネルギーが利用されていて、CO2削減効果がどの程度あるのか、把握することが必要になってくる。

 熱量計は、都のニーズに呼応して一部のメーカーからすでに発売されており、10万円程度の熱量計のコストは、都のほうでほぼ全額を補助するメニューが用意されている。

公害対策でも 地方自治体が先行した  住宅へ補助を行う政策とは対照的に、事業系の施設に対しては、規制の手法がとられることになった。

 もっとも、グリッドパリティは、一般の電気料金が高い国ほど達成しやすく、電気料金の高い日本では世界でもっとも早くグリッドパリティが達成される可能性が高いと見込まれている。

 各発電方式別の発電単価は、おおまかに、発電設備の建設費用、その設備の稼働率、燃料代といった要素で決まる。経済産業省のモデル的な試算では、石炭火力5.7円、LNG火力6.2円、石油火力10.7円、水力11.9円、原子力5.3円などの数字が例示されている。
 グリッド電力価格は、これに送電コストや、電力の需要形態や需要のタイミングなどを勘案して決められている。
 グリッドパリティが達成されない状況では、再生可能エネルギーの普及は進みづらい。そこで、世界各国で、普及のための優遇策がとられている。

 政策の手法は、A) 再生可能エネルギーで発電された電気を、グリッドよりも高値で買い取る B) 補助や減税を通じて、再生可能エネルギーの発電設備のコストを引き下げる C) AとBの両方、に大別される。

 ヨーロッパで、上記のCの手法が導入され、ドイツで太陽光、スペインで風力発電などが、この5年ほどで急速に普及した。また、アメリカや中国でも、主にBの手法が導入されて、風力発電所が急速に普及している。

 再生可能エネルギーの普及は、1) 地球温暖化問題への対処、2) 資源制約への対処として、導入されたが、近時のグローバルな経済危機から、3) 次の成長産業を振興する産業政策も目的に加わり、日本を始め世界の多くの国が、国民からも人気の高い政策として、再生可能エネルギーを政策的に後押ししている。 そもそも、地球温暖化対策分野での東京都の理念を見ると、都市文明では消費エネルギーの増大の趨勢にあることから、まずは、消費エネルギーを減らす「低エネルギー化」が重要。同時に、再生可能エネルギーや未利用エネルギーの積極的な活用を進める戦略だ。

 この理念を明らかにするために、2007年6月に策定されたのが「東京都気候対策方針」だ。同方針では、温室効果ガスを2020年までに2000年比で25%削減しようという「カーボンマイナス東京10年プロジェクト」が打ち出されている。

 実は、国レベルでもいわゆる「省エネ法」により、一定規模の事業者では、CO2の排出量を把握することが、2010年4月から義務となる。一方、東京都では、2002年度から、大規模な施設を対象に、CO2の排出量のデータを集めている。

 排出量の削減を義務づけるために、ドラスティックな規制的な手法を実施するためには、データに基づく裏づけが欠かせない。2010年度から、東京都が総量削減に踏み切る背景には、これまでの施策の積み重ねにより、データを把握していることがある。

 家庭部門(住宅)が、太陽エネルギーで生み出したCO2削減の価値を、事業部門が、自主的な取り組みだけでは、十分なCO2削減を達成できない場合に、証書を介して移転する。総量削減と、CO2排出に係る環境価値を移転する、いわゆる「キャップ&トレード」が、東京都では既にはじまっているのだ。

 これまでの公害対策でも、地方公共団体が先行して、様々な取り組みを行い、その中から、一定の成果を上げて、合理性が検証された枠組みが、国レベルの政策に採用された。

 個々の企業にとっては、まだ「様子見」のタイミングとの声も聞かれるが、これから1〜2年の間に政策のフレームワークは固まることになろう。残された時間は、少ない。