森田実


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政治 森田実氏が語る「アメリカ経済の混乱と小泉元首相引退」 神林毅彦2008/09/28  いま、アメリカが全世界を安定させる力「パックス・アメリカーナ」の崩壊が起こっている。小泉元首相はアメリカの新自由主義を日本に導入した中心人物だが、退陣後2年で政界を引退せざるをえないのは、日本でも新自由主義の挑戦が滅んだことを意味する。小泉氏が最後にしたのは、次男に「政治家業」を継がせることだった。構造改革とか言っていた人物の、それが実態――と、政治評論家・ 森田実氏は語った。

 さっそく、出演依頼が来た。

 小泉純一郎元首相引退報道のあった翌日の金曜日、政治評論家・森田実のもとに東京のある地上波テレビ局から生放送番組の出演依頼があった。お茶の間の顔であった「ご意見番」が2005年8月9日を最後に、全国ネットのテレビ・スクリーンから消えて以来、初めてのことだ。しかし、金曜日は関西テレビの番組に出演するため断ったという。このようなメディアの動きをみても、小泉元首相引退が衆議院総選挙に及ぼす影響は非常に大きいという。

森田実氏(森田総合研究所提供) 問:アメリカ経済の混乱、小泉元首相の引退は何を意味するとお考えでしょうか。

 森田:クリントン政権で労働長官であったロバート・ライシュ流に言うと、民主主義と資本主義が両立していた民主的資本主義が石油危機で終わり、より強大な資本主義を目指して、自由市場主義、つまり、市場の原理を使って自由競争を行なって、マネー経済を拡大していくという道に踏み出して30年経つわけです。

 30年というのが時代の大きな切れ目で、この30年が終わったということが特徴で、この30年のアメリカの小さな政府の理論が破綻して、大きな政府でなければ資本主義を維持できない、金融資本を維持できないということで大きな政府に転じざるをえない、規制を強化していかなくてはいけないということになるわけです。

 ですから、規制緩和の時代が終わるわけです。市場に委ねていては破綻がくるから、政府の力でもって支えるということです。今まで政府の力によって公的な社会福祉を実現していくということを否定してきましたが、それが30年ぶりに復活せざるをえないということで、30年間の価値基準がひっくり返ったというのが特徴です。

 世界においては、強大なるアメリカが全世界を安定させる力を失った、つまり、パックス・アメリカーナの崩壊ということが起こっています。日本も世界的な大波の流れに放り込まれて、いやおうなしにもがき苦しんでいます。もがき苦しんでいる時に新自由主義を日本に導入しようとし、いわば「小泉革命」を実行したその中心人物が、退陣してわずか2年で政界を引退せざるをえないというのが、日本においても新自由主義の挑戦が滅んだということなのだと思います。

 同時に自由民主党の政権そのものが動揺し、おそらく次の選挙においては、自由民主党と公明党の連立政権の消滅という事態も近づいています。次の選挙にやっと勝ち残ったとしても、その次の選挙にはなくなる運命にあると思います。次の選挙は5分5分ですが、政権が替わる可能性がだんだん強くなってきています。そういう意味で、世界においても日本においても大きな波が逆流を起こしたということだと思います。

 問:小泉元首相も竹中平蔵元郵政民営化担当大臣も身を引き、アメリカの経済も混乱している。郵政民営化は見直すべきでしょうか。

 森田:これは見直さなくてはいけません。郵便局がなくなることで、どんどん地域社会が壊れています。郵便局を再建するためには今の民営化の流れを一度止めないと無理なのです。とくに理念的な考え方で非現実的な分離をしました。このために郵便局は事実上崩壊しているわけです。いくつかの要素がありますが、なにしろ、「分割」というのが一番内部崩壊を強めているわけです。分割をしないで統合するというのが見直しの第一歩になると思います。これはせざるを得ないと思います。

 問:「戦後最長の好景気」と言われていた一方、いわゆるワーキングプアが増大しました。経団連を責める声もありますが、その責任は?

 森田:これは大きいです。経団連が推進してきたわけですから。しかし、今度は、経団連が景気対策、景気対策と政府に求めているわけです。経団連の人々は日本の国民から信用されません。

 問:御手洗冨士夫・経団連会長や奥田碩・前経団連会長などの方針が大きく間違っていたと?

 森田:そうです。方針が間違っていましたし、明確な哲学を持たない生き方が支持されないということです。最近、銀座で仕事をしている人たちから「銀座にお客さんが来なくなった」という話をよく聞きます。中流階級の崩壊から、今度は中・上流階級の崩壊が始まったというわけです。

 問:小泉政権下でワーキングプアの増大、中流階級の崩壊、地方の疲弊が進んだと言われてきましたが。

 森田:小泉氏が最後に行ったことは、自分の次男を後継者に据えて、もう100年ばかり続いてきた「政治家という家業」をさらに継続させていく、4世を生み出すということです。彼は綿密に計って総選挙の直前まで引っ張って交代します。対立候補がいないから当選できるのではないかと見られています。対立候補が出る時間を与えない所まで引っ張ってやっているのです。引退のタイミングは計画されていたもので、彼の影響力があるうちに次男に譲って、小泉家の家業を守っていくということです。構造改革とかきれいごとを言っていた人間が、政治家という古い世襲制を全力をあげて守っているわけです。

 問:国民に対しての責任というものはないのでしょうか。

 森田:もともとありません。実は、私は1970年代から日本の政治家を調べていますが、政治家の地元に行くと、彼らの本質がよくわかります。結局、地元で利権構造を作って、そして地元のエスタブリッシュメント(権力層)を固め、その上に君臨して世襲制を持っていくというものです。その上に自民党ができていました。今や「世襲制はもうたくさんだ」というのが全国共通の言葉となったので、自民党が崩れるわけです。

 問:地方の方々は今回の総裁選をどのように受け止めていましたか?

 森田:率直に言って、冷ややかです。もう初めから麻生氏で決まっていたわけです。しかも5人も出て、そのうち2、3人はタレントです。結局、皆、しらけてしまったわけです。とくに、小泉内閣で地方を切り捨てた人間が総裁選に出ていたわけですから、非常に冷ややかに見ていました。

 問:毎回のことですが、国民の大多数が投票できない党内の選挙を、メディアはあれほど大々的に報道する必要があるのでしょうか。

 森田:以前から自民党の総裁選はそれほど盛り上がっていたわけではありません。東京のメディアがひとり盛り上がっていただけです。日本のメディアはものすごく中央集権的ですから強力なのですが、メディアの信用が日本国民のなかで薄れたというのも大きいと思います。メディアはけっして論じないのですが、メディアの信用が非常に低下しているということです。メディアはいいかげんなものだと大多数の国民が思い始めたので、メディアの危機なのです。 (敬称略)