平成16年11月23日読売編集手帳


11月23日付・編集手帳

反面教師という言葉がある。その人自身の言動によって、こうなってはならないと悟らせてくれる人をいう。岩波書店の「四字熟語辞典」には、「中国共産党が革命運動を続けていくなかで使われた語」と説明されている◆さすがは、その言葉を生み育てた本家というべきだろうか。チリのサンティアゴで小泉首相と会談した中国の胡錦濤国家主席が、反面教師として教えてくれたことは興味深い◆胡主席は首相の靖国参拝を批判し、「日本は歴史を鑑(かがみ)にしなくてはならない」と述べた。百歩譲って、いまの日本が歴史を鑑にしていないと仮定するとき、その日本はどういう国に成り果てるだろう◆平和の大切さを歴史から学びそこねて、例えば、軍事費をやみくもに増やす。例えば人権を軽視し、国民が政治活動をする自由を制限する。例えば、よその国の領海を侵す…◆思いつくままに挙げてみれば、何のことはない。どれも中国がしていることである。「悪いお手本をまねてはいけませんよ」。胡主席は、親切にも教えてくれたのだろう◆防衛費の伸びはマイナス、政治犯や思想犯は存在せず、領海侵犯などしたこともない。歴史を鑑にするという点では優等生ともいうべき日本に、靖国問題という教材にもならぬ教材で講義を一席ぶつ。反面教師の先生も、なかなか楽ではない。