ヘッドフォンアンプ自作


ヘッドフォンアンプ自作

 「オーディオ」で、自作オーディオはプラシーボ効果でとても良い音だと脳が判断するだろうから、是非やってみたいと書いた。で、パワーアンプだのその辺はすでに持っているし、オーディオの心臓部分だからこれを自作初心者の僕がつくるものに置き換えるのは非常に勇気がいる。

 ボロの木造に住む僕は、以前からヘッドフォンにはお世話になりっぱなしである。ヘッドフォンは面白い。スピーカーセッティングなどの必要がない。ヘッドフォンから聞こえる音は、そのままヘッドフォンメーカーが意図する音だ。ヘッドフォンアンプは需要が無いみたいで高価。とてもその高価さに見合う音が出るとは思えない。

というわけで

 『はじめてつくるヘッドフォンアンプ』という本を購入してみた。作者は酒井智巳という人で、あとがきでは「体調が悪くなると音の違いがわからなくなった。なので体調管理には気をつけた」(抄)と言うくらいの細やかな人。他人には任せられないと、解説図も自分で書いたそうだ。こういう人の本は信頼できる。

まずは部品仕入れ

 部品の入手は秋葉原で簡単簡単、と思っていたら、ずいぶんあの手の店が無くなっている事に気が付いた。というかほぼ全滅か?まあ、どうにかして部品はそろえた。秋葉原半日がかりである。さて、スーパー初心者の僕から言わせてもらう上記の「はじめてつくるヘッドフォンアンプ」の足りないところを。

  1. 抵抗にも色々種類があって、どれを買って良いか迷った。(たぶん何でもよく、一番安い奴で充分)(追記:金属皮膜の物を使用すべき)
  2. 5オームだの5Kオームだのという抵抗は存在しない。一番近い5.1って奴を買った。(後で気が付いたが、本文中に5.1でも4.7でも左右そろっていればよい、と書いてある。しかし、そういうことは部品表に書いておくべき項目だと思う。部品表が部品表になっていない。)
  3. カラーコードなんて読めないよう。「茶黒赤金」とかどこかに書いておいて欲しかった。
  4. 部品表の電解コンデンサ、16WVの「WV」って何ですか?買うとき迷った。
  5. RCAプラグは「絶縁されているものを買うようにしよう」とあるけれど、なかなか見つからなかった。
  6. OPA2134売ってないよう。(2回路OPアンプなら大体OKか?不安なので巻末の代替部品を買った)

いずれも、工作をしている人にとっては常識なのだろうけれど、僕は胃が痛くなるほど悩んだ(マジ)。

そして、部品仕入れ秋葉巡りで思ったこと

  1. ポッタクリ(というと語弊がある。つまり高級部品屋)も存在する。
  2. 高い店と安い店の差が激しい。この辺の知識は要。
  3. どこに何があるかさえつかんでいなかったので同じ店を3回位訪れた。
  4. つまり、店情報ってのは大事だ。
  5. 部品の知識もある程度必要。僕はボリュームを間違い買い直しを繰り返し、合計3つ買ってしまった

工具もやや足りないのに気が付いた。ピンバイスとリーマーを購入。この二つを使って気合いでケースに穴あけするつもり。邪道なのだろうが、高くて邪魔なドリルを買ったところで、5個の穴開けだけで終わるかも知れない。最小限の道具でやっていく。通電チェックと、抵抗値チェックのために千円程度のテスターも購入。100円のパーツケースを2つ購入。写真にはないけれど、やけくそでホットボンドガンも500円で購入。精密ニッパーも千円で購入。

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基板部分製作開始

 本文中にある「ここはハンダ付けして根本から切っておく。こっちは2mmほど足を残しておく」だのという親切なアドバイスを全部すっ飛ばしてしまった。結論から言うと、ハンダに慣れていれば全ての足は切っちゃって大丈夫。後からハンダを盛る事で対応可能。

 んで、ひたすらくみ上げる。途中の難しいところは、トランジスタ周りをブリッジさせるところ。被覆線で左右6本づつジャンパさせるところ。

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 ひたすら不格好である。(追記:今見ると、抵抗の規格がそろっていないのがとても恥ずかしい。しかも、こりゃ酸化皮膜抵抗じゃないか。これは僕の「抵抗なんて所詮抵抗だから何だって値がそろっていりゃ結果オーライ」という考えから。結果的には音は良く鳴ってくれているので確かに結果オーライではある。)

 自作を何度もしている人が、このアンプを作成し、Webページに同様の基板の写真を掲示しているところがあった。それをみると、同じ回路なのに整然としていて美しかった。こういうのは性格が表れるな。

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 裏側。被覆線は全てLANケーブルをほどいて使用。ひたすらコ汚い。ただ、言い訳をすると重要なことは美しさではなくてきちんと電気が通るべきところに通っているか、通ってはいけないところに通っていないかということ。テスターで導通チェックを何度もした。

 基板が完成して、導通チェックも完璧ならばもう完成したも同然。

ケース加工開始

 僕が電子工作もどきをしていた頃は、ケースなんか買う金が惜しくてほとんどむき出しであった。ケース加工には道具がいろいろと必要だから、ケースだけの費用だけかければいいというわけではない。というわけで、僕ももう社会人。こういう道具類にお金をかけられるようになった。(といっても、ピンバイスとリーマーで貧乏くさく穴を開けることにしたのだけれど。)

 で、生まれて初めてのケース加工だったけれども、まあまあうまくいったと思う。ヤスリが必要なのは想像できなかった。これは教訓。今思うとヤスリが必要なのは当たり前だ。実際に穴明け作業の経験が無かったのでヤスリが必要なことが想像できなかったのである。こういうのも経験のうち。ニッパーでちまちまとバリを取り除いた。ただ、ボリュームの軸切り落としに必要な道具がなく、長いままなので不格好だ。

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完成である。

 ようやく完成した。

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 実際に音が鳴るのを聞くと、やっぱり感激だ。とてもいい音がすると感じた。

 で、手持ちのパワーアンプからのヘッドフォン出力と比べてみる。ここでオーディオマニアが陥るプラシーボ効果を体験することができる。つまり「僕の作ったヘッドフォンアンプの方が音が良いに決まっている」のだ。というわけで、客観的な比較などできるわけがない。感覚的なことを比較するにはやはりブラインドテストが必要になる。

総括

 さて、今回は「どんなもんだろう」とお試しで作ってみた。部品を吟味してないし、本の通りそのままに作ってみただけである。(しかも抵抗の規格はバラバラ、イモハンダしまくり。被覆線は細いLANケーブルのみ。)

 作者の酒井氏が本文中でちょくちょく「この部品を替えて聞き比べると面白いかもしれない」と言っている。こういう部分を替えてもう一つ作ってみようと思わせてくれる。

 (追記:特に抵抗を金属皮膜のものでそろえ、「グランドは太く短く」を心がけ、山場である6本ジャンパの配線も極力短くしたい)

 あと、やっぱり自分で回路図をくめるようになると楽しさは倍増だと思う。そうなりたいものだ。

第二段階に向けて

 さて、作っている最中に疑問に感じることがあった。それは「電気的に等価なのに、なぜここを直結する必要があるのか」ということ。たとえば、隣り合った2つのトランジスタのコレクタに、電源を被覆線で2本ジャンパさせている。コレクタ同士をブリッジして1本の被覆線でジャンパさせてはなぜいけないのだろう。

 著者の神経質で丁寧な性格がよく表れているこの本。こういう本は信頼できると冒頭に書いた。僕は筆者の感性にもほぼ絶対的な信頼を置いている。一番ややこしいこの被覆線による電源のジャンパを「ここがこのヘッドフォンアンプ作成の上での最大の山場だ。簡単にしようと悩んだが、結局音質を優先させた」ことの結果であると書いている。したがって、ブリッジさせて被覆線ジャンパ数を減らすよりも、音質のために難しいジャンパの数を増やす方を酒井氏は選んだと読むべきであろう。このあたり、聞き比べてみたい。

 あと、グランドへの落とし方も参考になる。こういう落とし方が電気工作、あるいは電気製品での常識なのだろうか。それともオーディオ的なグランドへの落とし方なのだろうか。その辺は初心者の僕には分からない。グランドは電気的に全部つながっている訳だから、どこからどこへ落とそうと最終的につながっていれば良いと思うのだが、酒井氏はそうしていない。R入力のグランドはR出力のグランドへと落としている。L側も同じだ。グランドへの落とし方の違いで音質に差が出るのか、ぜひとも体感してみたい。

 それにしても、やはり回路図は欲しかった。テスタで導通チェックをするのにも役に立つ。回路図がどのように基板になるのかも知ることができるし。

面白い回路を発見した

 Webページを巡っていて、面白いページを発見した。G社の実売4万円のヘッドフォンアンプの回路は、秋葉で200円もしないOPアンプ「NJM4556」のポン付け簡単回路であるらしい。その機械の回路図もあった。データシートに乗っているサンプルアプリケーション並に見える。「はじめてつくる…」よりも簡単に仕上がりそうである。

 あまりにも簡単回路なので、むしろOPアンプの動作を学ぶのに良いかも知れないと思っている。しかも実売4万円のヘッドフォンアンプなのだ。「はじめてつくる…」の回路図と見比べるととても面白い。この機械のコピー作成にチャレンジしてみようと思う。

第二段階を始める

 さて、手始めに「はじめてつくる…」の巻末に紹介されている「誰でも手軽にできる電子工作入門」を購入。さっそく読んでみた。

 アマゾンの書評には、「難しすぎる」「買って損した」とかさんざんだ。読んでみると分かる。全然何にも作ったことのない人がこれを読んだところでなにができるわけでもない。何も理解できない。せいぜい巻末のサンプルを作成することくらいか。

 これは出版社が悪いと思う。単純に題名の付け方が悪いのだ。ただ、僕が出版者側の人間になって、この本の題名をつけるとしたら、なんとつけようかやはり悩むところだろう。『電子工作のリファレンス』『定本電子工作』とでもつけようか。ただ、こんな題名では売れそうにないな。初心者向けの内容になっているから「誰にでも手軽にできる」とでもつけとけ。「入門」も入れた方が良いな。初心者をだましておけ。多くの人間に買わせるために。もうけるために。

 そんな出版社の意図が見え隠れする。著者の意図する内容はとてもすばらしいのに、題名が全てをダメにしている。実に不憫だ。僕自身の感想は、「僕みたいな人間にとっては必須・必読」である。中途半端も中途半端な知識しかなく、回路図も読めず、ただ何となく部品をつなげるだけの電子工作をしていた人間にとっては、とても有益な本だ。

 「はじめてつくる…」の配線を眺めながら、2-6-3章のオペアンプの基本特性と使い方をみる。ふむふむ。なるほどこれは酒井氏の回路の一部ではないか。オペアンプはこうすればこう動くのだな。

 上記でグランドの取り方に疑問があると書いた。1-3-1章「グランドと誤動作」をみる。なるほど。そして5-3-4章で、グランドの取り方(基板パターン)次第で、ノイズがウソのように消えた実例がある。明快。疑問氷解である。グランドの取り方次第ではノイズだらけになるのか。なるほど、だから酒井氏はこういうグランドを取っているのか。ふむふむ。

 …とまあ、こんな具合である。酒井氏は「理論でなく実際に手を動かす人のための本でお勧めできる」とコメントしている。題名だけでこの本を買った人はそりゃだまされたと思うだろうな。出版社も商売でやっている会社組織だから、売るためには酷いこともするのだ。だから、本というものは実物をぱらぱらめくってから買うのが基本である。本の第一印象ってのは案外当たるものである。これにも経験が必要だが、これは余談。