「ゲーム」を「ロック」に置き換えてみると
たとえ話によって議論を行うのは論理的には正しくないが、理解の一助になればとここに書く。
ゲームで遊ばない人で、テレビゲームというものがいまいちわからない、だからこの規制問題についてコメントできない、という人は、「ゲーム」を「ロック (音楽)」に置き換えて考えるとわかりやすい。
実際、ゲームとロックには、いくつかの共通点がある。
- CD や DVD といったディスクで販売される (ロックはラジオやTVでも聴けるという違いはあるが)
- 若者や子供に人気がある
- 繰り返し練習し、インタラクティブに参加する (ロックの場合、カラオケやコピーバンドの練習がこれに当たる)
- 芸術というほど高尚なモノでもないが、一般的な娯楽品ではある
- 社会的な作品もあれば、反社会的な作品もある
- バイクを盗んで走り出す
- 手首を流れる血を相手の体に
- 悲しみばかり見えるので目をつぶすナイフがほしい
ただし違いもある。だからこの文章は、理解を助けるための「外伝」的なものだ。
- ロックはラジオやTVで無料で聴ける。ゲームは無料では遊べない (体験版やフリーソフトは除く)
- ロックにはCEROのような自主レーティングは存在しない。
『ロックに置き換えてみた架空の話』
ロックは青少年に人気がある。アニメやドラマの主題歌も含めれば、「ロックを聴かない青少年なんてほとんどいない」くらいの普及率になる。
さて少年犯罪が起きた。少年が殺人を犯した。TV では、「犯人の少年はロックを聴いていた!!」「少年は将来ロックバンドをやりたいと言っていた!!」とセンセーショナルに報道した。そのTVを見た視聴者は、ああやはりロックって悪いものなんだ、ロックを聴くと犯罪者になるんだ、と誤解する。
そんなわけで神奈川県は、犯人少年が特に熱中していた「バイクを盗んで走り出す」という内容のロックを、有害図書指定して販売規制することにした。
1:その反応は?
この規制に対して、ロックファンが反対した。
- 表現の自由は憲法で保証されている。販売規制は憲法に違反する。
- 残虐なロックを聴くことが犯罪を誘発するという科学的な根拠がない。憲法という最高法規に相反する規制をするのだから、科学的な根拠が必要だ。根拠なしに憲法に反してよいとなったら、これは民主主義国家である現代日本の終焉である。
- 有害図書指定された曲は、何十万人ものロックファンが聴いている。この何十万人のうちたったひとりが殺人を犯したからといって規制するのはおかしい。総務省統計局のデータを元に計算すると、少年が殺人を犯す率は10万人に0.71人、つまり14万人にひとりである。この曲を聴いたロックファンがこの14万分の一よりも有意に多く殺人事件を起こしていないかぎり、この曲が有害であるということは言えないのではないか。
- 曲を編集した10秒だけのテープを聴いて規制決定したそうだが、審査方法がいいかげんすぎる。
- 「残虐」「性的」の基準があいまいだ。これでは表現の自由を恣意的に規制することができてしまう。民主主義に対する脅威だ。
2:規制賛成は…
ロック規制に賛成する人は、以下のようなコメントを寄せた。
- 松沢さん、毎日非難のコメントにお疲れだと思います。悪質なコメントに負けずに頑張ってください。応援しています。
- 私は8歳の男の子の母親です。すべての母親が松沢さんを応援しています。
- 以前、「孤独な撃墜王」というロックに熱中するあまり、飛行機をハイジャックした輩がおりました。最近のロックはサンプリングや多重録音で音質がよくなり、ロックと現実の区別ができないほどになりました。ロックは麻薬的な影響があり、麻薬は所持しているだけで有罪です。知事の行為に心から感動しています。
- ロックと現実の区別ができる人もいれば、できない人もいる。ロックに影響されてしまう人間がひとりでもいるなら、規制すべき。
- ロックファンは科学的根拠がないなどと批判するが、逆にロック歌手のほうがロックには害がないことを証明すべきだ。証明できないうちは規制する。
- バイクを盗む、手首を流れる血、目をつぶすナイフがほしい、こんなことが表現の自由なのか。このようなロックは有害である。これを規制するのは当然である。科学的根拠など必要ない。
- ロックが有害じゃないなんてやつは、どうせロックばかりやってるダメ人間だろ。
- たとえロックの歌詞の中であっても、人を殺すとかバイクを盗むといったことが許されるのでしょうか?
- ロックなんて存在しなくても世の中まったく困らない。ロックなんて無意味なものは規制してかまわない。
3:知事は…
規制に反対するロックファンに対して、知事はこう答えた。
- 科学的根拠が必要不可欠とのことについてですが、少年事件などの犯罪行為との因果関係を直接問うものではなく、福祉的教育的な視点から青少年が健全に育っていくための社会環境づくりという視点からの指定です。
- 国民の基本的人権である言論・表現の自由は最大限尊重されなければならないことは当然のことですが、これは無制限に保障されるものではなく、公共の福祉のために必要ある場合は、その時、所、方法等につき合理的制限がおのずから存在するものであり、青少年の健全育成という社会的目的を考えるならば一定の制約もやむを得ず、憲法21条第1項に反するものではないとの考えは、判例においても示されています。
- 審査方法につきましては、限られた一定の時間内に審査するため最初から終わりまでの全てを見るわけではありませんが、これは特定の場面を恣意的に拾い出すのではなく、最初のイントロから連続して提示しており、曲全体の内容を判断するに相当なものと考えています。
また、審査基準につきましては青少年への現実的な影響を重視し、場面設定が現実社会に近く、暴力性や残虐性が極めて高いことを指定の基準にしたところです。
- ロック音楽に限らず青少年の健全な育成を阻害する残虐的、非人道的な内容のテレビドラマや映画なども規制されるべきであり、既に一定の自主規制もなされています。なお、ロック音楽(カラオケ)は自らが演奏するという特徴がある故にテレビと比べ青少年への心理的影響は一層深刻であると考えています。また、欲求のはけ口として機能するというご意見や過激な内容の作品との上手なつきあい方を教えるべきとのご意見につきましては、優れた芸術や健全な野外活動などが青少年に必要であり、そのような考えには賛同しかねます。
- 青少年の人間形成における影響にとっては、現実の空間であろうとバーチャルな空間であろうと同様ですが、特に、今日ロック音楽の表現は、大変リアルになっており、その影響はより一層大きくなっています。
- 音楽産業が世界に向けて継続的に産業として発展していくためにも、作品の内容が健全で良質なものが求められているものと考えます。
さて話を現実に戻して
規制反対派と、知事+規制賛成派。
どちらが正しいだろう?
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