1950 / 01 / 06　二俣事件

1950以前

【1950/01/06　二俣事件】

1950年1月7日朝、静岡県磐田郡二俣町のＯさん宅で、一家4人、父(46歳)、母(33歳)、
妹(2歳)、妹(0歳)が血塗れとなって死んでいるのを長男が発見し二俣署に届けた。
押し入れ内の散乱の様子等から強盗殺人の疑いが強いとみた警察は、素行不良者と
みていたものを中心に片っ端から呼び出し300人以上を取り調べていった。

そんな中、警察は、取り調べをした際にアリバイを明確にできなかった須藤満雄（当
時18歳）を別件の窃盗容疑で逮捕、本件について追及していった。
須藤は、主張したアリバイも崩され「自白」。送検後も「自白」を維持し起訴された
が、起訴後に、警察での取り調べが酷かった事を訴え「自白」を撤回した上申書を書
き検事へ送った。

警察での取り調べにおいて”拷問”があったという須藤の主張を裏付ける内部告発証
言がされたりもしたが、第一審の静岡地裁は、須藤の「供述調書」等を証拠に有罪と
認定し、「死刑」を判決。その後の東京高裁への控訴は棄却となった。
須藤の上告により審理をした最高裁は、自白の真実性を疑い、静岡地裁へ差し戻す事
を判決。 差し戻し審の静岡地裁は、「供述に任意性ありとは認められず証拠能力が
ない」とし、本件につき無罪の判決をなした。
その後、検察側の控訴により審理が続いた東京高裁の判決が、「控訴棄却」となり、
危うく死刑にされかった須藤が、やっとの事でその恐怖から逃れられる事が確定した
のである。

多くの冤罪事件において、取り調べの際に”拷問”があったと被告とされた側からの
訴えがなされているが、密室内での出来事であるが故に、それを証明する事は困難を
極める。それを行った側からの証言などは、あり得べくもないのが普通であろう。
しかし、この事件においては、二俣署に勤務していた現職警官のＹ巡査が、
”取り調べの際に拷問があった”という内部告発をしている。

弁護人の尋問に対してＹ巡査は、次の様に証言した。
「なかなか言わない者については裏の土蔵で調べました。・・・」
「(別の人を国警の道場で取り調べた際に)ひぃひぃ声が道場の裏手を通る人に聞こえ
て具合が悪かったとの事でした。ところが町警察の土蔵で調べた時には何も外部へは
もの音が聞こえなくてよかったとの事でした。そのため拷問するといった取り調べに
ついては土蔵で行うようになったのです。・・・」

この証言の後にＹ巡査が受けた迫害(「偽証罪」での追及から「狂人なり」として精
神鑑定に付される等)は、「被告人の司法警察官に対する自白は・・・任意性がない」
とした差戻審判決の内容と共に、記憶され続けるべきであろう。

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