オカルトを超えて


 本書は事例研究というよりも、むしろウィルソンのオカルティズム思想の総決算として、これまでの思索の結果をまとめあげている。『ポルターガイスト』で、心霊がわれわれの意識から独立した存在であることを容認するようになった経緯を詳細に論じて、なぜ彼がよりラディカルな路線へと転向することになったのかを説明している。
 ウィルソンは、神秘体験の役割とはわれわれを覚醒させることにあり、われわれが目的を持ってこの世界に存在していることを思い起こさせようとしているのではないか、と推測している。われわれは(精神的世界から)「シベリアの辺境」にある開拓地に派遣されてきた移住遠征隊であり、物質の領域を開拓することを目標にしている、というのだ。ところが、強烈な目的意識を感じるに至るために、夢想状態や日常意識から離脱するまでには非常に長い道のりであり、多くの人々が苦痛と困難の中で挫折してしまう。問題はどのようにして閉鎖回路から抜け出すのか、ということになるが、ウィルソンがこれまで論じてきたように、マスローの至高体験が示すように、ときとしてあまりにも容易に空高く上昇することがある。
 このように、ウィルソンの辿り着いた立場はかなり神秘主義的なものとなっているとはいえ、中期以降に確立した楽観主義という彼の基本的メッセージは変わりない。ウィルソンは現世におけるわれわれの努力の重要性を強く主張しており、神秘体験や死後の世界やエイリアンに全ての問題を託してしまっているわけではない。この点で、彼はあくまでも現実主義者なのである。


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