天空勇者フライトナー第7話


「復活!フライトナー!」


フライヤーが眠ってから数週間。
AH-1復活のための解決策は未だ見つかってはいない。
そして昼時のカイト自室。
頭に濡れタオルを乗せ、ベッドに眠るカイト。
フライヤーが倒れてから数週間の間、バスターズを開発・製造し、戦闘がない時はAH-1を復活させるため一日中格納庫に篭ることもしばしば。
睡眠時間がない日も珍しくなかった。
もちろん出動要請があれば即座に出なければならないためカイトの体力も限界だったのだ。
そして、事件は起こった。

昨日の夜――フライヤーズ格納庫。
時計の針は0時ちょうどを指していた。
電灯類は消え、窓から月明かりがわずかに差し込み、唯一壁に掛けられたハロゲンライトだけが端に止められた戦闘ヘリ――フライヤーを照らす。
人はいない。約一名を除いて。

フライヤーのコックピットに座るカイト。ハロゲンライトからの明かりを頼りに部品や装置を接続していく。
「ここをこうして……よし。起きてくれよ、フライヤー」
フライヤーの電源装置をオンに。計器・モニター類が点く。
成功ならここでモニターに『AH-1起動中』と出なくてはいけないのだが。
「くそっ……また失敗か」
結果はマニュアルモード専用レーダーが起動。超AIモードには移行しなかった。
次なる方法を試すため接続した物を外し、コックピットを降りる。
しかし、乗降用ステップを歩くカイトの足元はおぼつかない。
「(駄目だ、目が霞んでる……だがここで諦める訳には……)」
しかし虚しくもカイトの意識はここで途切れてしまう。
カイトがステップから落ちた音、そして手に持っていた装置が床に落ちた音が静かな庫内に空しく響いた。
結局、翌朝6時頃に格納庫に侵入もとい遊びにきたアイに発見される事となる。

時間を戻して現在。
カイトはうなされながら眠り続けている。
看護するのは、ベッドの横でパイプ椅子に腰かけるアイ。
「だからちゃんと睡眠はとれって言ったのに……バカカイト」
口調は怒っているが、顔はどこか寂しげだった。
「私だって一応ロボット工学の勉強してたんだから、ちょっとぐらい」
と言いかけたところで口を閉じた。カイトの目が微かに開いたからだ。
アイの顔が多少なりとも明るくなった。
「カイト……?」
即座に声をかけるアイ。しかし返事はなく目は再び閉じられていた。アイは溜め息をついた。
「はぁ……水がぬるいかな。替えないと」
タオルの入った洗面器を持ち上げ、洗面所へ向かおうとした。
――ピピピッピピピッ
耳障りな電子音が鳴り響く。すぐ近くから聞こえているようだ。
アイは慌てて、ちょっと小走り。洗面所のドアを蹴り開け、急いで台へ。
「ちょっと待って、今両手が塞がって。よっと」
洗面器を置いて白衣のポケットを探り始めるが。
――ピッ……
「切れた……?」
ようやく胸ポケットに入っている通信機を見つけ、画面を眺めるアイ。
 ……通信中……
切れたのではなく通話ボタンに触れてしまったのか。
「あれ? でも通信中って声が聞こえるよね?」
アイは首を捻った。あっ、と一言。
「受話音量オフになってたハハハ……」
ダイヤルを回して音量を中程度に上げる。
『ザザッ……ちらは第3港区画だ。不審な動きをする作業用ロボットを発見した。……オーケー急いでくれ』
これを聞いてまたも首を捻るアイ。そりゃ返答していないのにオーケーと言われちゃ仕方がない。
「まさか……!」
悪い予感に振り向き、カイトが眠るはずのベッドを見る。予感は的中だった。
無造作に捲られた布団、放り出された濡れタオル、無くなった靴。決めてはたった今閉まった玄関ドアだ。
カイトが飛び出して行ったというのはどんなバカでも分かる状況。
そう、先の通話はカイト対パトロール隊員の会話だったのだ。
アイとカイト、双方の通信機の周波数が重なってしまったのだろう(特にアイは暇な時に適当に弄って遊ぶ癖があるために)。
「あぁのバカ! 病み上がりでっていうか上がりきってないし、そんなので任務なんか出来るわけが……まったくもう……」
手に持つ通信機のボタンを押す。
「カイト!? 聞こえるよね!?」
『アイ……スマン。でも、隊長がこんなところで倒れてる訳には行かないんだ……! フライヤー出動!』ブツッ
「ちょっカイト! カイト!? もう!」
アイは通信機をベッドに投げつけた。
ベッド、つまり布団に投げつけるのは唯一の良心か。
アイはそのままベッドに経たり込み愚痴愚痴呟き続けていた。

第3港区画。
作業用クレーンが船からコンテナを運び出すごくごく普通の埠頭である。
一つ普通でないのは……
「海〜は〜広い〜な〜大き〜いな〜♪」
黒衣を着た、いい歳した大人が作業用ロボのハッチを開けて海を眺め、童謡「海」を歌っていることである。
フォグ・ラインである。
「月〜は〜昇る〜し〜日は沈〜む〜♪」
フォグ・ラインである。
何度でも言う。フォグ・ライン(27歳独身)である。
「あぁ、今日はいつになくブルーな気分だ……これで夕暮れならばロマンチックだったろう……ヘックシっ」
時は真っ昼間。
海風に揺れる一筋の鼻水。フォグ・ラインである。ズズズ……。
「む? レーダーに反応……フライヤーズか?」
速やかにハッチを閉じ、機体を翻し空を見る。戦闘ヘリが1機のみ。地上にはいない。
つまりフライヤーだけということだ。
「よもや、海風に当たっていただけで通報されるとは……だが好都合だな」
「フォグ・ライン! そこで何をする気だ!」
機内スピーカーから聞こえてくる声。
「フッ、暴れれば現れるであろうフライトナーに勝つ。そのために私はいるのだ! 今回は早めの到着で街を壊さずに済んだな、フライヤーズ!」
フォグ・ラインの必殺技「名演技・悪の狂学者」炸裂する。
「何をぉ! チェンジ! フライヤーズミサイル!!」
変形したフライヤーの腕から数発のミサイルが発射される。しかし、あっさりかわされるフライヤーズミサイル。
フォグ・ラインはニヤリとして言った。
「なんだそのへなちょこミサイルは……情けないぞフライヤーズ!」
「くっ、ならこれで! 当たれぇぇ!!」
ガトリングガンの引き金を引く。勢い良く回る銃身。無数の弾丸が雨の用に作業用ロボに降り注ぐ。
だがこれもフォグ・ラインの腕にかかればなんてことはない。サクッと避ける。
「当たらなければどうってことはない。フフフッ、落ち着いて合体でもしてみればどうだ? クククッ」
流石のカイトもそこまで言われちゃ黙ってるわけにもいかない。
ライトナーズを呼び、合体モードに移行する。
「天空合体! フライトナー!!」
エンジンを逆噴射させゆっくりと着地させる。
「よし、それでいい。ならばこちらも! 合体!」

作業用ロボが翔び上がる。それと同時にどこから現れたのか4台の作業用ロボがその真下に集結。
2台が運転席を爪先にして脚部に変形、腰〜爪先までの下半身を形成する。
さらに2台は運転席を肩アーマーに見立てて変形。
右腕となるものの手先には巨大なドリルが、左腕となるものの手先には巨大な3指アームが現れる。
最後、フォグ・ライン乗り込む1台がコアに変形。
下部に脚部、左右に腕が合体。
頭部がせりだしモノアイが赤く光る。

ドッスン着地。砂ぼこりが激しく舞う。
すぐに風に流され砂ぼこりが晴れる。そこに現れたのは真っ黒な人型のロボット。
その身長はフライトナーの頭高を5mほど超える。
「なんて大きさだ……」
カイトは開いた口がふさがらない状態だ。
「フフフッ驚いただろう。これが私の、自信を持ってお送りする最新型ロボット……スーパーユニオンワーカーだ!」
右手のドリルを天に向け、キメポーズ。
ドリルの先端がキラリと光る。

「行くぞフライトナー! ファイナルドリルアターック!!」
右腕を突き出し突進するスーパーユニオンワーカー。
「いきなりファイナルかよ! あぁしまった! ぐぅっ!」
ツッコミに気を取られ回避が遅れるフライトナー。ツッコミに出した左腕をかすってしまう。
「フンッ、ギリギリで直撃は免れたか。だが、今度は外さん。ワイヤーアーム!」
左腕のアーム部が勢い良く発射される。
カイトはスロットルレバーを全開に操縦桿を目一杯引いた。
「上だ! 避けろ!」
間一髪、なんとか回避。したかと思われた。
「甘いなフライトナー」
フォグ・ラインが操縦レバーを引く。クイッと向きを翻し上昇し始めるワイヤーアーム。
フライトナーの上昇速度より速い。
「くそっ避けろ! 駄目だぁ!」
後退しやり過ごそうと試みるも遅かった。脚を捕まれるフライトナー。
フォグ・ラインがボタンを押す。巻き取られるワイヤー。引かれるフライトナー。
その巻き取り速度は凄まじく、そのまま地面に叩きつけられてしまう。
「ぐはあっ」
機体ダメージはもちろんカイトへのダメージも最大級。加えてカイトは病み上がりである。体力的にも限界だろう。
「はぁはぁ……体が動かない……」
しかし、敵は待っちゃくれない。フォグ・ラインはなんの事情も知らない。フライトナーに全力をぶつけてくるはずだ。
そう。全力をもって最後の一撃。
「これで最後だ! ファイナル……ドリル……アタぁぁぁーック!!」
回転数を上げたのか先より鋭い音がギュンギュン聞こえている。
「(くっ……ここまでか……)アイ……皆……すまない!」
カイトの眼から涙が一粒落ちる。
その時、奇跡が起きた。
落ちた涙は、昨夜の一件で開いたままだったメンテナンス用のハッチに入り、回路をショート。
超AIさえもびっくりするような大量の電気が回路に流れ込んだのだ。
つまり……
「AH-1、キドウ」
「な、なんだ……?」
突然の声にカイトは視線を泳がせた。
ふとモニターに焦点があった。そこにはレーダーはなく、ただ一言。
『AH-1起動中』
そして更に画面が切り替わり機械的な顔が表示される。
「私の名はAH-1"フライヤー"。ご質問は?」
その声を聞いた瞬間、カイトは身体中に力が戻るのを感じ、最後の力を振り絞って体を起こし操縦桿を掴んだ。
「まさか、夢じゃない……よな、フライヤー」
「カイトか。どうした。いつになく弱々しいな」
「スマン。つい嬉しくてね……よし(あと少し、もってくれよ、俺の身体!)」
カイトはぐちゃぐちゃになった顔を手で拭い敵に向き直った。
「別に構わないが。ん? まさか戦闘中か!?」
「あぁ、残念だがフォグ・ラインと交戦中だ! メインカメラ起動! フライヤー行くぞ!」
「ハハハっ寝起きで戦闘って訳か、了解!」
フライヤーがいれば百人力。たとえ目の前に敵がいようとも、回避なんて朝飯前!
「死ねフライトナー!」
目前に迫るドリル。しかしカイトは慌てず指示を送る。
「回避だフライヤー! エンジン全開!」
間一髪。ドリルは足元を通り過ぎていく。勢い余ったスーパーユニオンワーカーは、コンテナの山に突っ込んだ。
大量の小麦粉を被った真っ白なスーパーユニオンワーカー。それを見据えて十字揚力刀を構えるフライトナー。
「フォグ・ライン。その小麦粉の代金はお前が払ってくれよ!」
「はぁぁあ!」
エンジン全開フルスロットルで突進するフライトナー。頭上で回る4本の刃。
その回転が揚力を生み風を生み竜巻を生み、その竜巻が敵を飲み込む。
「こんな竜巻ごとき! くそっ操縦が利かん!」
「お前の負けだフォグ・ライン!!」
「揚力刀! 竜巻斬り!!」
竜巻により更に切れ味を増した十字揚力刀。
加速に加えて力一杯投げつける。
真っ二つになるスーパーユニオンワーカー。
大爆発。
脱出するフォグ・ライン。
「おのれフライトナー……私の技術の結晶までも……それから小麦粉代は払わんからなー!」

こうして街の平和は守られたのであった。

その後。
コックピットで再び気を失ったカイト。フライヤーにより無事に帰還するも、2日間眠り続けました。
結果。
「バカカイト! 私、もう泣いちゃうから……う、うわぁ〜ん」
「あぁあぁ、悪かったって泣くなよ頼むから〜小学生かよっ」
そう言いつつもカイトは嬉しそう。
そして今日も大空研究所は平和です。

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