エルーラン王国の東部国境から伸びる「大陸行路」を東に三ヶ月。エリンディル地方と東方世界の間に位置するのが、サマルカンドの街である。
両地方のいずれとも異なる独自の文明を持つこの街は、大陸行路を行き交う行商人たちにとっての一大中継地として知られている。
現在この街は都市国家の形式を取っているものの、明確に君主や領主と呼べる存在はなく、何人もの行政官や有力商人たちが激しい争いを繰り返しながら、それぞれの思惑に従って街を動かしている。
いつ果てるとも知れない、苛烈なる暗闘。そのためいつからか、この街は"常夜の街"と呼ばれるようになったのである。
サマルカンドの街並みは、独特の建築様式(丸みを帯びたドーム状の屋根やアーチ、ふんだんに使用される幾何学模様の装飾)のせいで、エリンディル地方とはまるで違った印象を受ける。
屋根は美しいエメラルドブルーに塗られた物が多く、そのためかつてこの街は"青の都"とも呼ばれていた。
大陸行路の中継地らしく、バザールと呼ばれる市場には、この地方のみならず大陸各地の様々な産物が並ぶ。
一方で裏通りの治安は非常に悪く、盗みはおろか殺人さえも日常の光景である。
街の北には、エリンディル地方のキルディア王国周辺から連綿と続く「無限の砂漠」が広がっており、サマルカンドの街はこの砂漠の南端にあるオアシスに面して存在している。
逆に街の南方には豊沃な草原地帯が広がっており、集団で移動生活を送る遊牧民の姿を見ることもできる。
周辺には、かつてこの地方に王国が栄えていた時代の遺跡が多々存在している。これらの多くは、当時世界中から集められた富を、そのままに残していると言われている。
かつてこの地方には、「サマルカンド王国」と言う名の国が栄えていた。
サマルカンド王国の歴史は、"火の時代"の最初期まで遡ることができる。伝承によれば、アーケンラーヴによって創造されたヒューリンが、この地方に初めて興した国家だという。
しかし建国から数百年が経つと、エリンディル地方や東方世界にいくつもの新興国家(その内の一つはエルーラン王国である)が誕生し、サマルカンド王国にたびたび内政介入をしてくるようになった。
そして今から五百年ほど前。エルーラン王国をはじめとするエリンディル地方の諸国と、当時東方世界に存在していた帝国が手を結び、大軍をもってサマルカンド王国に侵攻。これを滅ぼしたのである。
かろうじて街としての独立は保ったものの、もはやサマルカンドにはかつての力は残っていなかった。
それでも王国の復活を恐れる周辺諸国は、サマルカンドへの内政介入を続けた。行政官や有力商人たちに働きかけ、街の内部で相争うように仕向けたのである。
この思惑は成功を収めた。それから現代に至るまで、この地方に統一した王権が誕生したことは一度もない。
メナーム商会の若き当主。百人に及ぶ商会の人間たちを取り仕切る、やり手の商人。
先代当主の時代までは、メナームはサマルカンドの中でも小さな商会にすぎなかった。
しかし8年前、先代当主が暗殺され、ジャリールが当主の座に就くと状況は一変する。彼は人並み外れた才覚をもって、メナームをサマルカンドで最大規模の商会まで育て上げたのだ。
現在は自ら隊商を率い、東方世界とエリンディル地方を行ったり来たりしている。
性格は商人らしく実利志向。ただし人の縁が時に想像だにしなかった大きな利益をもたらすことを良く知っており、そのため一見慈善事業にしか見えないような行動を取ることもある。
PCとの接点:依頼人としての登場がメインとなるだろう。また彼の「友人」だったり、彼を「恩人」としているのも面白いかもしれない。
ハーニム・モスクの指導者。敬虔なる神の使徒。
サマルカンドの聖職者には、「酒を飲んではいけない」など様々な戒律が存在する。彼はその全てをきっちりと守る、厳格を絵に描いたような人物である。
周辺諸国によるサマルカンドへの介入に対し、最も強硬に不快感を示しているのが彼である。
そのため、聖職者を中心とする民兵組織を独自に編成し、周辺諸国に対し破壊工作を仕掛けようとしているという噂が流れており、本人もこれを否定していない。
PCとの接点:PCがサマルカンドに対しどのような立場を取るかによって、依頼人や「後援者」となったり、逆に「仇敵」となったりするだろう。
大陸行路沿いにある酒場の名物ダンサー。この酒場の女主人でもある。
ヴァーナにしては豊かな胸と、露出の多い服装で知られる。
色気過剰気味とも言える容姿ではあるが、ダンサーとしての実力は確かな物であり、彼女の踊りを見にわざわざサマルカンドまでやってくるファンも少なくないという。
PCとの接点:「友人」「腐れ縁」などとして使うのに適しているだろう。
アルザング商会の女当主。常に全身を黒いフードとローブで覆っている。
商会に利益をもたらすためならばどんな手段でも躊躇わず取る冷酷な人物として知られており、優秀なアサシンを多数抱えている。
もしもアルザング商会の利益を損ねるような真似をした者がいたならば、彼女は決してその者に対して容赦はしないことだろう。
PCとの接点:暗殺事件や遺跡探索時の襲撃者の黒幕など、PCとは敵対する立場で登場させるのが望ましい。
サマルカンドにおいて、畏怖と共に語り継がれる伝説の暗殺者。
多数の護衛に守られた標的を堂々と殺し、それ以外は一人も殺さずにどこへともなく消えるという暗殺スタイルを持つ。そのため、彼を目撃した者は案外に多い。
その反面、標的となった者に待っているのは確実な死であり、彼から逃れ得た者は一人としていないという。
異形として「布状の物に気を流し込み、鋭利な刃に変える」という能力を持っている。
PCとの接点:基本的に敵として登場する。「仇敵」「憎悪」などの関係も面白いだろう。
古王国の遺跡(万色の宝珠) 日下部真琴 `05/3/20