CANALAZZO 13号


CANALAZZO 13号

2006/05/19(月)発行

━━━(1面)【海外】ヴェネツィア、東方へ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

4月末、ベイルートへ向かったヴェネツィア外交使節団は、当地の太守と交渉。長時間に及ぶ折衝の末、かの地でのヴェネツィアの商業権益の拡大、同盟港化に成功した。

東方通商の拡大を目的とした約40隻からなる外交使節団は、ラグーザに寄港後、東地中海をクレタ南岸沖からアレクサンドリア沖を通過、途中海賊船の襲撃に見舞われつつも、無事にベイルートに入港した。
そして、25億9千万ドゥカートの融資を切り出しつつ、太守府との交渉に当たった。
この昨年11月以来の快挙にサンマルコ広場は歓喜に沸いている。

商都ダマスカスを背後に控え、東地中海随一の商業港となるベイルートを押さえたことにより、ベニバナ、ダマスク織や剣など中東の特産物がリアルト市場へとより一層流入し、大きな経済的効果を生むことが見込まれている。
また、ヴェネツィアのガラス器やレース・絹織物の強力な販売路となり、加えて、ラグーザとの交易で更紗の生産が促進されることが期待されている。

今後、このベイルートを皮切りに、東地中海が“我らが海”となるのかどうか、ヴェネツィアのみならず、国際社会の耳目を集めることになりそうだ。

一方、このことにより、オスマントルコ協調路線をとり、ベイルートなどシリア・エジプト沿岸一帯に権益を有していたフランスとの経済的衝突は決定的なものになった。
リアルト界隈では、フランス宮廷が私掠船団に対し密かにヴェネツィア船討伐令を下したとの情報も飛び交っており、ヴェネツィア当局からも東地中海のみならず、外海での航行に注意を促す文書が出回っている。

━━━(2面)【特集】令嬢の謎━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

復活祭が始まり、イースターエッグハントに熱狂する人々が大海原を駆け巡る中、ある謎がささやかれはじめた。
すなわち、ヴェネツィアの酒場にいるヴィットーリア嬢をめぐる不思議である。旧知のヴェネツィア市民が話しかけても、初対面のごとく振舞う様子が極めて不自然であり、一向に本人もその件に関して質問を受け付けないため、様々な憶測が流れている。

曰く、当人は記憶喪失である。
曰く、当人は影武者である。
曰く、当人は錬金術師に造られたホムンクルスである。

最後の説については、医師マルコー氏の見解であるが、あまりにも荒唐無稽であったため、余人に受け入れられず、見解を発表した後、当人は行方をくらませている。

今回本紙では、オルセオロ家の関係者に接触することができた。以下、その一問一答である。~
記者「酒場のヴィットーリア嬢ですが、本当にヴィットーリア嬢ですか」
関係者「なにをおっしゃいますか。あれはヴィットーリア様に間違いございません」
記者「では、なぜ知人に対しても他人行儀なのでしょうか」
関係者「それは、なんとも申し上げようがございませんわ。その方が何かお嬢様に失礼なことでもされたのでは?」
記者「いえ、極めて多くの市民からそういった声が上がっているのですが」
関係者「ああ確か、アルヴィーゼ様から何か言い含められていたようですわ」
記者「それは何と」
関係者「最近オルセオロ家には、政敵が多いからむやみに口を聞くなとか、怪文書の元にならないように気をつけろとか。あらいやだ、これも口止めされていたんでしたわ」
記者「なら、アルヴィーゼ様が釘をさしたと」
関係者「…もう何も申し上げることはございません」

本紙では、アルヴィーゼ・オルセオロ元首補佐官に取材を申し込んだものの、多忙を理由に断られた。

しかし、周辺取材を進める中で、4月以降飛び交う

「リスボンの酒場でつぶれる貴族令嬢」
「アレクサンドリアで売り飛ばされそうになる貴族令嬢」
「マッサワであからさまな詐欺にあう貴族令嬢」

といった一連の怪文書騒動がオルセオロ元首補佐官をいらだたせ、妹君の行動に一定の制約を加えたという実情が浮き彫りになってきた。
下手に、国外に渡航されるよりも目に届くところに置いておきたい、なるべくなら余計な口は開いてほしくない、ということのようである。

しかしながら、実は自分の船にヴィットーリア・オルセオロ嬢が乗っていると打ち明ける船長もおり、あながち嘘ともいえない口ぶりから、酒場にいる令嬢がヴィットーリア・オルセオロ嬢なのかどうかの謎は深まるばかりである。