TS-440Sメンテナンスガイド


総論:オールドリグとパーツ

  • 無線機、特にデジタル回路を持つ無線機が誤動作を起こす場合、原因は電解コンデンサーだったりする場合が少なくない。
    • TS-440Sに限ったことではないが、TS-440Sは既に発売から20年以上(最終ロットでも15年以上)が経過している無線機なので、電解コンデンサーは既に電解液の揮散・劣化により容量低下等を起こしている可能性が高い。
    • 最悪コンデンサは自噴や液漏れを起こし、周囲の基板に噴いた場合には電解液汚染で使用不能となる場合があるので、サビ・変色・液漏れ・膨張が認められる電解コンデンサは精神衛生上交換しておいた方がよいだろう。
  • コンデンサーでも、マイカ・セラミック・フィルムコンデンサーの類は電圧が掛かって逝く場合はあっても、経年変化で死ぬ可能性は低い。
  • 抵抗は、経年変化で多くの場合抵抗値が増加するので、増幅回路の定数からずれていくことはあるが、動かなくなることは少ない。抵抗が焼損する可能性があるファイナルユニット周辺や電源回路周りは注意が必要である。
  • トランジスターやICは、TS-440Sが生産されていた80年代中盤には生産技術が確立していたため、80年代初頭以前のリグに比べると死ぬことはまれである。ただし、経年劣化で増幅率が下がるなどは考えられる。不調時に以下の素子を最初に疑うのが良い。
    • 送信出力がらみ→ファイナルユニットでは、電力増幅素子とバイアス電流を流す素子
    • 電源が入らない→電源部の素子
    • 受信感度が低い→受信部のうち、特にフロントエンドの素子
    • 全ての or 一部の周波数範囲で周波数表示が出ず送受信不能→PLL周りの素子(アンロック)

感度低下をした場合に疑うべき箇所(1)

まずは強入力による素子の劣化について。 感度が低い場合は、まずはフロントエンドでの不調を疑ってみるのが常套手段である。

BPF切替えダイオードの劣化

強入力は、BPFを切替えるダイオードを経たらせるが、ある程度以上悪化するとダイオードがリークを起こして感度低下をもたらす。これは多くのHF機で起こることである。感度が変に低い場合、まずは迷わずBPF両端のダイオードを全部交換してみること。
10バンドに分割されているので2種類*10本=20本(RF UNITのD4〜D23)必要となる。

2SK125

フロントエンドの初段のミキサーには、定番の2SK125(RF UNITのQ3, Q4)が使われており、これらも強入力で経年劣化を起こす。 2SK125はIdssのペア取りをしたものを使用すること*1。2SK125にはIdssの大小から-3、-4、-5ランクがあるらしいが、TS-440Sには2SK125-5が指定されている。
125はペア取りしたものであることが必須である。

感度低下をした場合に疑うべき箇所(2)


コイルの経年的ズレによる離調

このあたりをいじるのは最後の手段にしたほうがよく、何らかの目的でよほどいじりたい場合を除き、スペアナ等がないのであればいじらないほうが身のためである。

ケンウッドの堅牢なつくりからして、前のオーナーがイイカゲンにいじって狂わせたなどの場合を除けば、BPFや同調回路が大ズレしている可能性は低い。
特に受信フロントエンドのBPFは周波数範囲ごとにシビアにパスバンドと減衰が決められている*2ので、下手にいじると受信性能を大幅に狂わせる可能性がある。コイルのコアの位置をマジックでマーキングした上で±30°ぐらいずらしてみて、効果の有無を見てみる程度にとどめておくべきである。


TS-440Sの悪名高き故障原因・PLLアンロック

外面がそんなに悪くない状態のTS-440Sがジャンクとしてオークションなどに出品されている場合、大抵は「特定の周波数範囲で送受信できない」「周波数が表示されず動作しない」と書かれている。
その原因の多くが、「PLL回路のVCO(電圧制御発振器)の発振停止によるPLLのアンロック」であり、手先が器用な人ならばかなりの確率で修理することが可能である。

RFユニットのVCO発振部

VCOの”すきま風効果”防止用に注入された樹脂系接着剤の経年劣化が原因とされており、いくつかのサイトで樹脂除去による修理成功の記載があるが、部品とともに固着しているため、丁寧に作業をしないとパーツを破壊する。 これを地道に取り除く。自力で除去した例は以下の通り(ref: JF8DLU)。

自力で除去
自力で除去

なお、ケンウッドサービスにVCOまわりのメンテナンスを依頼した場合は、下記の様に除去後ロウが流し込まれるようである。

自力で除去

VCO部に使用されている素子としては、

  • トランジスタ2SC2668は2SC1923で代用可能。
  • バンドスイッチングダイオードMA858は入手難だが、同様のRFスイッチ用ダイオードで代用可能*3
  • バラクタ(ダイオード)ITT310TEは入手難、ピッタリの代用品を探すのも困難か。 経年変化を考えると、ついでに電解コンデンサも交換しておいた方がよい。

TS-440S特有の不調・アンテナチューナー

TS-440Sのアンテナチューナーは通常は非常に快適に動作し、SWRを簡単に1.5以下に下げることが出来て便利である。しかし、経年変化によってチューナーの動作音が猛烈なものになってしまうので、定期的な注油が必要。


*1 ペア取りの仕方にはいろいろ流儀があるようであるが...
*2 たとえば7MHzを含むBPFのパスバンド6〜7.5MHzと、かなり狭い。まあそのお陰でこのリグは混変調に強いのです。
*3 1SS268内蔵の2本のダイオードの片側を使っているという例がある。