まずは強入力による素子の劣化について。 感度が低い場合は、まずはフロントエンドでの不調を疑ってみるのが常套手段である。
強入力は、BPFを切替えるダイオードを経たらせるが、ある程度以上悪化するとダイオードがリークを起こして感度低下をもたらす。これは多くのHF機で起こることである。感度が変に低い場合、まずは迷わずBPF両端のダイオードを全部交換してみること。
10バンドに分割されているので2種類*10本=20本(RF UNITのD4〜D23)必要となる。
フロントエンドの初段のミキサーには、定番の2SK125(RF UNITのQ3, Q4)が使われており、これらも強入力で経年劣化を起こす。
2SK125はIdssのペア取りをしたものを使用すること*1。2SK125にはIdssの大小から-3、-4、-5ランクがあるらしいが、TS-440Sには2SK125-5が指定されている。
125はペア取りしたものであることが必須である。
このあたりをいじるのは最後の手段にしたほうがよく、何らかの目的でよほどいじりたい場合を除き、スペアナ等がないのであればいじらないほうが身のためである。
ケンウッドの堅牢なつくりからして、前のオーナーがイイカゲンにいじって狂わせたなどの場合を除けば、BPFや同調回路が大ズレしている可能性は低い。
特に受信フロントエンドのBPFは周波数範囲ごとにシビアにパスバンドと減衰が決められている*2ので、下手にいじると受信性能を大幅に狂わせる可能性がある。コイルのコアの位置をマジックでマーキングした上で±30°ぐらいずらしてみて、効果の有無を見てみる程度にとどめておくべきである。
外面がそんなに悪くない状態のTS-440Sがジャンクとしてオークションなどに出品されている場合、大抵は「特定の周波数範囲で送受信できない」「周波数が表示されず動作しない」と書かれている。
その原因の多くが、「PLL回路のVCO(電圧制御発振器)の発振停止によるPLLのアンロック」であり、手先が器用な人ならばかなりの確率で修理することが可能である。
VCOの”すきま風効果”防止用に注入された樹脂系接着剤の経年劣化が原因とされており、いくつかのサイトで樹脂除去による修理成功の記載があるが、部品とともに固着しているため、丁寧に作業をしないとパーツを破壊する。 これを地道に取り除く。自力で除去した例は以下の通り(ref: JF8DLU)。
なお、ケンウッドサービスにVCOまわりのメンテナンスを依頼した場合は、下記の様に除去後ロウが流し込まれるようである。
VCO部に使用されている素子としては、
TS-440Sのアンテナチューナーは通常は非常に快適に動作し、SWRを簡単に1.5以下に下げることが出来て便利である。しかし、経年変化によってチューナーの動作音が猛烈なものになってしまうので、定期的な注油が必要。