時代背景とTS-440Sの位置づけ


80年代のケンウッドHF機全盛期

1980年代後半当時、ケンウッドのHF機のラインアップには、定価30万台のTS-940Sが最高級固定機、10万代半ばのTS-670(後にTS-680S)が小型6m/HFマルチバンド機、そして10万台頭のTS-430S(後にTS-140S)が小型HF初級機として存在した。

その中にあって20万クラスのTS-440Sは、上位TS-940Sと初級2機種との間を埋める形で存在しており、販売戦略上”ちょっと高級な小型機”という位置づけとして、カタログや雑誌広告においてTS-940Sのすぐ下に紹介されていた。後述するオートアンテナチューナー内蔵(小型機初)やIF帯域複数切替を前面に売りに打ち出していたのだが、実際、当時小型機には搭載されていなかった機能だっただけに、”高級さ””実戦力”を売る上で強みになったことだろう。

当然、同じマーケットには他社のHF機も魅力的なリグを投入していた。
80年代後半、TS-440がそうであったように、YAESU FT-757GX, ICOM IC-731が小型高機能HF機と言うフィールドで人気を博しており、それぞれは特徴を持ちつつもリグとしての実力・魅力もなかなか高かった。

発表からディスコンまで

TS-440Sの発表自体は1985年にされており、実質的には1986年から製品の出荷が開始された模様。
MH誌1986年7月号でJE1JKL中村OMによる実戦的なレビューが掲載されていたのが最初と思われる。比較的辛口で知られるQSTのProduct Reviewには1986年12月号に登場し、筆者(WA6IVC)は小型機としてはかなりポジティブな評価を下していた。

その後、90年代の初頭に新ラインナップ(TS-950/850/690/450)が出揃うことでTS-440は存在意義をなくし、少ししてから1992年の半ばごろ、ついにカタログ落ちを迎えた。したがって、HF機の中でもマイナーバージョンアップもないまま6年間程度製造されていたリグであり、比較的商品サイクルの長かったHF機であると言えよう。*1

TS-440の目指したもの

実際、設計思想としても”ちょっと高性能な小型機”を目指したフシがある。 感度重視で安かろう悪かろうのイメージが付きまとう小型機とも、中型サイズの固定実戦機とも立場を異にしているようだ。

ただし構成・機能としては小型機としては比較的標準的であり、混信除去などで目立った機能は少ない。高級・実戦機に比べると削られてしまっている機能は多いと言える。ただ小型機にしては基本性能が比較的しっかりしており堅牢・ヘビーデューティであるため、DXerのサブ機やDXペディションのメイン機として国内外で多用されていたようである。現在でもOMのシャックにサブリグとして転がっていることが多い。


*1 余談であるが、よく製品がサイクルが長かったと思われがちなFT-757GXは、1982年製品発表から90年代初頭まで出荷されているが、GXからGXIIへマイナーバージョンアップが行われているので、厳密には440よりも一製品としてはサイクルが短い。