JST-135とは


はじめに。

日本無線株式会社(JRC)製、アマチュア局用HFトランシーバー・JST-135が発売されて、今年(2018年)でちょうど30年になる(1988-1993?)。

JRC社製のHFトランシーバー(一体型)の系譜はJST-100に始まり(1982)、JST-110、JST-125、JST-135と受け継がれ、JST-145/JST-245(1994-)を最後にアマチュア向けから撤退している。

JRCの無線機自体、三大アマチュア無線機メーカー(ケンウッド・八重洲・アイコム)に比べればかなりマイナーである。しかし、JST-135はその中でも際立って技術指向かつとんがった性能と機能を有していた無線機である。

JST-135シリーズのラインアップ及び亜種

JST-135シリーズはJST-135D(100W機)、JST-135S(10W機)に加えて、 JST-135E(25W機)があった。

  • Eは「3アマ25W」制度が設けられた際に追加されたと記憶している。
  • 実のところSやEがどれほど売れたのか謎である。100Wへのアップグレードキットも売られていなかったはず。
  • 本Wiki中で「JST-135」「135」などと記載されているのは、基本的に「JST-135D」を指していると考えて頂きたい。PA部を除く大半の情報はD, E, S共通である。

JST-135 HPとは?

1992年ごろ、ツマミは金色になっておりオプションを多数搭載した「JST-135 HP」が台数限定で売られていた(BWC, ECSSなど内蔵)。海外版は150W機で、電源やマイクもセットだった。

ディスコン間際にオプション満載のお得感あふれるセットを出す・・・ケンウッドにおけるLimited商法である。

プラグインユニット方式

JST-135も含めてJRCの無線機は、「マザーボード+プラグイン方式」である。業務用無線機でよくみられるが、アマチュア無線機ではトリオ(TS-900Sなど)や八重洲(FT-101やFT-901)が部分的に採用した程度で、あまり使われていない。

ユニット(基板)単位での交換・修理が可能であり、保守性が高い(例:メーカーに不調なユニットだけを送付すれば直して返してくれたりする)。少なくともメーカーがサポートしてくれる間は。

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一方、アマチュア無線機を個人がいじる場合、基板プラグイン方式がメンテしやすいかというと、答えはYES and NOである。調整ポイントが基板上に多数ある場合は如何ともしがたい。エクステンションボード的なものを自作し、基板を筐体外で動作させ調整する必要がある。

IMDについてメーカーが真剣に取り組んだHF機。

  • JST-135は「クリーンな電波を出すこと」がメーカーの売りの一つであった。「フルパワー連続送信に耐えるフルデューティと、3次・高次IMDを考慮した低歪率PA」を謳っていた。
  • 100W機JST-135DのPAの構成は、ドライバ2SC2879x1(A級動作)→ファイナル2SC2879x2(AB級動作)だそうだ。ドライバ段にファイナルと同じ石を使うのはずいぶん贅沢である。クリーンな電波を出せるのは素晴らしいが、A級動作させているドライバと、ひと工夫あるが低効率なファイナルが、電流バカ食いの原因なのかもしれない。
  • JST-135HPは、135Dと回路全く同じで、海外で150W機として売られていた。このリグは100wではなくて150W動作を前提とした回路・実装なのである。

ファイナルの石の話。

  • 2SC2879(東芝、Pc 250W)自体は、アマチュア無線機メーカーとしては、ケンウッドと八重洲が1980年代〜2000年頃まで製造したHF機によく使われていた石である。12V系で動作し、HF SSB用RFパワー用に用いられるバイポーラトランジスタのとしては、2SC2879は余裕があるいい石と思われる。
    • ケンウッドでは、TS-440S、TS-680S、TS-690S/TS-850S、TS-870Sまで使われていた。
    • 八重洲だと、FT-757を皮切りに、FT-850、FT-900、FT-1011、FT-1000MPまで。
  • 当時HFの100W機では、東芝 2SC2290(Pc 175W)、三菱2SC2904(Pc 200W)、三菱2SC3240(Pc 270W)辺りがよく使われていたと思う。
    • なおTS-480シリーズは東芝 2SC2782(Pc 220W)のVHF C級パワーアンプ用石を使いこなしている(S以下がx2、HXがx4)である。

参考: 工事設計書の記入例|サポート|ケンウッドHFトランシーバー保証認定対象機種(JARL登録機種)[HF機]

操作性の問題。

発売されていた当時、音質等は絶賛されていたが、操作性については批判的な意見が多かったように思う。

操作性は、ぶっちゃけ良くない。一応2VFOなのだが、VFO A/Bではなく、F1/F2となっているのがまず良くない。

運用中直感的にいじりたい機能をワンプッシュで呼び出せないことが多い。

家主自身はJRCマニアではなく、JRCに対する思い入れも全くない。

本Wikiの家主は、ここ20年以上135を使ってきたが、JRC製の他の無線機・受信機などは所有していない。思い入れもあこがれもない。

しかし買った当時から現在に至るまで、使えば使うほどに、「なんでこんな無線機作ったし」とも思うのである。 高い価格、独特の操作性、高い音質、業務機風の回路構成と実装、先進的な拡張性、ふしぎ機能*1、・・・

発売当時受信性能や音質がもてはやされ、現在に至るも7MHzなどで時折使っている方を見かけるが、DXに真剣に使われたという話をあまり聞かない。 135を実際にハードなDXingの場面で使った話もいずれ書いてみたいと思う。

おまけ。

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こちらが発表当初の広告。

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91年ごろにはNRD-535が登場し端に追いやられ始めました。


*1 アマチュア用HFトランシーバーとして蛇足・無意味にさえ思えるような