SSの部屋 / eveaoさん作2


side episode II

いつもは音で溢れているセッションハウス……。
しかし今日はいつもとは違った。
流れている音楽はなく、いつもよりも暗い室内で物音が聞こえるだけだった……。


side episode II 「 あるセッションハウスの光景 」


「ひとそらくーん、そっちはどうー?」
静かな店内に女性の声が響く。

「えーと、もう少しで片付きまーす。
あ、コップが少し足りないかもですー。」
棚を整理していた人物が返事をする。

ここはセッションハウス~。 店はつねに開放をしているのだが、店なので掃除や仕入れなどのために一時店を閉めることももちろんある。
そして現在はメンテナンスの真っ最中である。

最初に声を出した女性はこの店のマスター。
名前は誰も知らなく、皆がマスターと呼んで慕っている。
またまとめの人とも呼ばれており、この店のそして皆のまとめ役である。

そしてひとそらとよばれた人物。
セッションハウスに住み込みで働いている人物で特技は絵。
そのかわいらしい絵で奏者さんなどに似顔絵を配って喜んでもらっている。

「ひとそらさーん、終わったらこっち手伝ってー。」
フロアの方から声が聞こえてくる。

その声の持ち主はお茶。
彼女もまたセッションハウスで働く人物で彼女の特技も絵である。
ひとそらとセッションハウス絵描き二大看板としてこの店を盛り上げている。

「はーい、そっちの調子はどうですー?」
「掃除は終わったんだけど、フロアのレイアウトがねー」

この店の配置やコンセプトは定期的に変わるのだが、主にこの二人の手によって仕上げられている。

「これをこっちに置いて、その絵はこっち側でどうでしょ?」
「んー、そうだね。じゃあ今回はそれで行こうか。」

ひとそらのアイディアを採用し、フロアの意見が決まる。

「二人ともお疲れさまー、少し休んでくれていいよ。」
言葉とマスターが二人にコーヒーを差し出す。

「ありがとうございます。」
「ありがとーございますー。」
二人はコーヒーを受け取り一息を着く。

「マスターはまだ休憩しないんですか?」
ひとそらが聞く。
「eveao君が奥でまだ売上整理とかやってるからねー、まだ私が休むわけには行かないよ。」
「じゃあ、私も働きますよ。」
「いいからいいから、充分働いてくれたし休んどきなって。それじゃ私は奥に行って手伝ってくるよ。」
そう言ってマスターは奥へと歩いていった。

「じゃあ、お言葉に甘えてすこし休みますか。」
お茶がカウンターに座りコーヒーをすする。
「そうですね、ここは素直に甘えておきましょう。」
その隣にひとそらも腰をかける。

「いやー、色々と大変ですけど奏者さんがこれで気持ちよく演奏してくれるなって思うと作業も楽しくなりますね。」
ひとそらが嬉しそうに話しかける。
「そうだね、あまり目立たない仕事かもしれないけど皆に喜んでもらえることが一番嬉しいね。」
お茶も笑い今は誰も立っていないステージを見つめる。
「夜になればきっと今日も騒がしくなるだろうから、今のうちにゆっくりしておくといいよ。」
隣に座るひとそらにそう語りかける。
「その騒がしいのがまた楽しいんですけどねー」
ひとそらが笑いながら言う。
そして二人は笑いながらステージを眺め続けていた。


暗転


「eveao君作業の調子はどーだい?」
机に向かって作業をしている男にマスターが話しかける。
「あー、マスター。なんとかがんばりますけどもう少し時間かかりますねー。」
eveaoと呼ばれた男が答える。

eveaoと呼ばれた机に向かった男もセッションハウスの従業員である。
ひとそらやお茶以上に裏方を務め、主に店の資源管理や売上などを担当している。
特に特技はないのだが、影ながらセッションハウスのためにがんばっている。

「任せちゃって悪いねー。ファイル整理だってまだなんでしょ?」
コーヒーを差し出しながらeveaoに話しかける。

「いやー、あれは半分自分の趣味でやってることですし全然大丈夫ですよ。
それにマスターもひとそらくんもちゃーさん達は店が開いてからが本番ですし、このぐらいなんてことないですよ。」
とマスターからコーヒーを受け取り返事をする。

ひとそら、お茶、マスターは開店後も客の相手などをするのだがeveaoは空調管理や音の調整などの裏方を担当しているのだ。
先ほど話しがでたファイル整理というのは、セッションハウスでは演奏された音楽を録音することもできるのだが
多くの奏者が来訪するのでそのファイルの量も莫大となり定期的な整理が必要となるのだ。

「んじゃ最後のひとふんばりやりますねー。」
受け取ったコーヒーを飲み、背伸びをして再び机に向かう。

「じゃあ私もカウンターの整理の仕上げをやってくるね。」
そういってマスターは表に戻っていった。


暗転


「さてと、お酒の補充は大丈夫かな、と。」
言いながら棚にある飲み物を1本1本チェックしていく。
幅広い年齢を受け入れ、特に制限などは何もないセッションハウスだが表向きは一応バーなので酒の管理は必須である。
「あーテキーラとトマトジュースが切れてるね…。
 奥の冷蔵庫から取ってこないと……。」
足りないものをリストアップし奥の倉庫へととりに行く。


…数分後


「さーて、これで大丈夫かな。」
棚のドアを閉じながら言う。
「マスター、私達も休憩はもう大丈夫ですー。」
先ほどからカウンターで休んでいた二人も仕事着に着替え準備を完了している。
「後は、eveao君だけど…と噂をすれば…」
奥から小走りでeveaoが走ってくる。
「ふー、マスターこっちも終わりました。」
「ご苦労さま。それじゃ今日も店を開けますか。」
「「「はい!」」」
マスターの声にみんなが一斉に返事をする


演奏をしていない店員だけのセッションハウスの普段の日常。
誰もが知っているわけではないが、皆自分達が快適に過ごすために影から支えられているのを知っている。
そうして今夜もセッションハウスの幕は開ける。
皆の支えによって今宵も音楽は夜空に鳴り響く……。

side episode II-終-

外伝

いつも賑やかなセッションハウス。
今日はいつも異常の盛り上がりを見せていた。
それは何故かというと……。

セッションハウス外伝「eveao妄想100%物語」


店に入るといつもを遥かに越えた熱気に包まれた。
「今来たんだけど、なんで今日こんな盛り上がってるの?」
近くにいた男に聞く。
「ばっか!お前ステージ見てみろよ!じぽたんてとらたん変ドラたんうぃるたんに加えて歌姫大集合してるんだぜ!?」
その発言を聞きステージに視線を向ける。

そこには完全なライブが出来上がっていた。
左奥にはピアノを奏でるてとら。
右奥にはキーボードを奏でるじぽたん。
そして中央奥には激しくドラムを叩く変ドラ。
左右にはwillcomとにのうでが立ちツインギターを奏でる。
そして中央では歌姫達が……。

セッションハウスの歌姫といえばもちろんこの人達である。
ハスキーボイスで多くの観客を魅了する、にゅう。
誰もがその優しいきれいな歌声に魅了されるだろう、ぽっか。
そして今やハウスの誰もが認めるセッションハウスの女王、ぼんやり。

これににのうでが加わり女性ボーカル四天王となるのだが、今回はギターに専念しているようだ。

「これはまじで豪華だ……。こんなフルメンバー揃ったのは初めてじゃないか?」
思わず口から言葉がこぼれる。
そしてそのまま男に質問を投げかける。
「そうだな、近いことはあったけどここまで完璧なステージは初めてだな。」
先ほどから演奏を聴いていたと思われる男はあまりの迫力に飲まれているようで、少し声の調子が弱かった。

「Godやってー!」
客の一人が叫ぶ。
「おっけーい、みんないいかーい?」
じぽたんがみんなに呼びかける。
「ついてきまーす><」 「じぽたんにお任せww」
てとらと変ドラが答える。
にのうでとwillcomは既に準備を完了してまっている。
そして歌姫達もじぽたんを見て軽くうなづく。
「じゃあいくよ!」
じぽたんが叫ぶ。

変ドラがリズムを刻み…、そして演奏が始まる。
奏でられるツインギター。
ピアノとキーボードによる二重奏。
そして激しく叩かれるドラム。

全ての音色が混ざり昇華する。
そして…、歌が始まる。

『乾いた心で 駆け抜ける』

にゅうとぽっかとぼんやりの声が混ざる。
本来は複数で歌う曲ではないが、そんなことを気にするヤツは誰もいない。

『ごめんね 何も出来なくて』

これもまた本来はいないはずキーボードが主旋律を奏でるが見事調和している。

『痛みを分かち合うことさえ あなたは許してくれない』

ギター、ドラム、キーボード全てが混じり、その上にボーカルが乗る。

『無垢に生きるため振り向かず 背中向けて去ってしまう on the lonely rail』


盛り上がっている客達の輪から少し離れたカウンターのところに3人に人影が見える。
「今日はすごいですねえ。 これでも一応バーなのにまるでライブ会場ですよ。」
ひとそらがあきれたように喋る。
「まあまあ、いいじゃない。 みんな楽しんでくれてるようだし。
ここは特に決め事はなく、求められるのはただひとつ。 みんなで楽しむってだけなんだし。
なんならみんないってもいいよ?」
カウンターによりかかっている茶とひとそらにむかってマスターが話しかける。
「いや、いいですよ。仕事中ですs「さっすがマスター話せるー!」
ひとそらが喋りきる前に後ろから声が聞こえてくる
裏で作業をしていたeveaoが水を得た魚のように突然飛び出してくる。
「ちょっとお前仕事!」 「マスターのお許しがでたんだからいいじゃん!」
ひとそらの注意もむなしくeveaoは客の中へと紛れこんでいく。
「すみません、あいつはもう……。」
申し訳なさそうにマスターにひとそらがしゃべる。
「いいって(笑) ひとそらくんもいきたいんでしょ? 今夜は私が許す!」
マスターが笑いながらひとそらの肩を叩く。
「すみません、じゃあ私も!」
勢いよくひとそらも客の中へと走ってゆく。

「ちゃあさんも言っていいんだよ?」
カウンターに残っている茶に話しかける。
「いえ、私はここからゆっくりと聞かせていただきますよ。」
言いながらカウンターの席に座る。
「そうかー。じゃあ私達はここから聞くとしましょうか。
 こんな状態じゃしばらく私達の仕事はなさそうだしね(笑)」
グラスを磨いていたマスターもグラスを置き、椅子に腰をかける。

歌は夜空へと吸い込まれていく。
いつまでも鳴り止まない音楽と観客の声。
その中に混じる二人の店員。
そしてそれを少し離れたところから眺める二人の女性。
セッションハウスは眠らない、今日もまたいつまでも音楽は鳴り響くのだろう……。

外伝-終-